大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『自動車泥棒』孤児院の食事、屋台のラーメン屋、メロン・肉塊・野菜クズ・牛・ニワトリ、聖書の売り歩き中の昼ご飯のパン


自動車泥棒

混血児たちの孤児院・神聖ホームで暮らす酋長(安岡力也)、アントニオ(フランツ・フリーデル)らは外車の部品を盗み、そのパーツを組み合わせて一代の車を作り上げようとしている。彼らは悪ガキとしてシスターらに目をつけられており、夕食の時間への遅刻の罰則として食事抜きにされることもしばしばだった。あるとき、酋長は孤児院の仲間のハツコ(デビィ・シェス)がスケートリンクで知り合った学生・朝雄(寺田農)に傷物にされたことを知る。酋長は仲間を率いて朝雄をとっちめ、孤児院の中の彼らの秘密基地に監禁して自動車づくりを手伝わせようとする。

トリッキーな演出と音楽に驚かされる異色の青春映画。
乏しい知識で例えさせて頂くと、日活の『黒い太陽』や『狂熱の季節』とテイストが似ている気がする。安岡力也がいきなり踊りだすシーンなどはアメリカのミュージカルのよう。孤児院の入り口に「信仰は自由への道」というネオンサインのアーチがかかっているのが面白い。

┃ 孤児院の食事

安岡力也らは外車の部品泥棒を働いていたため、孤児院の食事の時間に遅刻する。彼らが孤児院へ戻ると、みんなはもう食堂で夕食の膳を前に賛美歌を歌っていた。遅刻した安岡らは食事抜きである。
このときのメニューが給食のようなアルミトレーと皿に盛られたパン、スープ、おかずなど。イメージ上の「キリスト教系孤児院の食事」そのまんまでちょっと感動する。

┃ 屋台のラーメン屋

育ち盛りな安岡力也らは夕食を抜かされておなかぺこぺこ。孤児院の前を通りかかった屋台のラーメン屋(上田吉二郎)「中華料理 萬福」を襲撃して屋台を強奪(?)、鍋で勝手にラーメン7玉を調理して夕飯にしてしまう。調味料は紹興酒、こしょう、しょうゆ。大味なラーメンができそうだが、悪ガキ7人組はおいしそうにたいらげていた。

┃ メロン・肉塊・野菜クズ・牛・ニワトリ

本作では「空腹の安岡力也が食べ物を幻視する」とでも言えばいいのか、食べ物にまつわる幻想的&トリッキーな演出がなされている。
彼らを叱責するシスターの頭の上にいつのまにかメロンが乗っていたり、シスターが肉塊に変わったり、牧師にたまねぎやネギなどの野菜クズを投げつけたり(これは本当に投げつけているのかもしれない)、はたまた牧師はに、学生(寺田農)はニワトリの姿に変化したり。
また、孤児院ではニワトリ、豚を飼っている。ニワトリは卵を取るため、豚は売り払うために飼育されているようだ。この生き物たちのけたたましい鳴き声も印象的。

┃ 聖書の売り歩き中の昼ご飯のパン

孤児院では活動資金?づくりのため、シスターと子供たちが街へ聖書を売り歩きに出かける。
その際の昼ご飯はパン。シスターが大きな長いフランスパンのようなパンをちぎって子供たちに分け与えるのだ。普段の食事の貧しさはともかく、そんなものでお腹がふくれるとは思えないのだが、それはまさにその通りで、安岡力也が「ホームを出た俺たちは社会では身体が虚弱すぎると言われる」と吐き捨てるシーンがある。
それにしてもシスターが外出時に持っているバッグがパンナムのバッグ(乗客がもらえるやつ)なのが謎。アメリカへ子供を飛行機で帰したときにもらったとかだろうか。