大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『顔役』お手製豪華弁当と出前ラーメン

顔役

立花(勝新太郎)は悪徳刑事であるが、その手腕は鋭い。かの地ではヤクザ・大淀組と入江組が抗争を続けており、白昼の傷害事件やナイトクラブでの銃撃事件が起きたため、警察は大淀組若頭・杉浦(山崎努)を逮捕する。しかし抗争は収まらず、状況はより激化。上部から捜査本部に介入があり、強引な捜査を詰られた立花は警察手帳を課長に叩き付けて署を後にする。

勝新監督の第一作。ありがちなストーリーながら虚飾を排した主観的映像が強い印象を残し、超クローズアップで撮られた人物や物体がリアルでありながら異形な世界を作り上げている。日常会話のような省略の多い台詞や手持ちカメラのブレまくる映像からラフな作品かのように思えるが、内容を慎重に見てゆくとかなり作り込まれた世界観であることがわかる。

┃ お手製豪華弁当とわびしい出前ラーメン

逮捕された大淀組若頭・山崎努(マジヤクザ感はんぱない)が取調室で食事を撮るシーン。めかしこんだ水商売風の女が面会を断られる。山崎努の前にはその女が差し入れに持って来たらしい豪華弁当が置かれてる。巨大な海老フライが何尾も入っており、サイコロステーキや唐揚げ、レタス・パセリ・トマトなどのマヨネーズ添えに加え、デザートにすいか・メロン・マスカット・さくらんぼなどのフルーツもたくさん入っている。料理屋で拵えてもらったものではなくいかにも手製っぽいちょっと雑な詰め方。しかしそれゆえに運動会のお弁当のようで、おいしそうだ。
えびを真顔でモグモグする山崎努の正面に座っている若手刑事が食べるのがで出前で届いたラーメン。どんぶりが真横から映るが、具は見えない……。割り箸を割ってつかめるだけつかんでズズっとすするが、麺しか見えない……しかもそれ、のびとるんとちゃいますかと声をかけたくなるだんご状態。それを見た山崎努は、超上から目線で食べかけの海老フライを放り出し、若手刑事に「食えよ」と言う。若手刑事が思わず顔を上げ、まるでつばを飲むように無言でラーメンをちゅるっとすすり込む。いやあ、やっぱり刑事ってわびしいものなんですね。

細かい説明台詞はないが、一瞬で山崎努と下っ端刑事の関係がわかるシーンだった。もちろんこの後山崎努はどんどん図に乗ってゆくのだ。