大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『三池監獄 兇悪犯』差し入れのもなか、ウィスキー、船倉の穀物、酒、巻き寿司、坑夫の食事のかゆ、みかん、うどん、米びつ漁り、おひつのご飯・吸い物・たくあん

三池監獄 兇悪犯

明治36年。三池監獄は三池炭坑での石炭採掘の重労働と苛烈な懲罰により、生きては戻れぬ地獄と恐れられていた。坑道別に班に分けられた囚人たちはその班長に付き従っており、中でも郡司(宍戸錠)はぼた安(伊吹吾郎)、丸目(汐路章)ら同房の者たちから厚い信頼と尊敬を得ていた。郡司たちが労苦に耐えかね脱獄を考えるようになっていたある日、北海常(鶴田浩二)という兇悪犯が釧路から移送されてくる。同房の者をいきなりサクッと殺した北海常に丸目らはいきり立つが、北海常はかつて釧路では典獄を人質にとって脱獄した者がいることを郡司にアドバイスする。三池での典獄視察は月末。郡司らは月末に向けて準備をはじめるが……

脱獄したりストライキしたりと色々忙しい大味刑務所映画。眉毛を剃った中年太り鶴田浩二が無表情な殺人鬼を怪演。宍戸錠は日活時代のプロポーションを保っていてえらいと思った。東映の刑務所映画は食い物描写に異様な熱気がこめられているが、本作もご多分に漏れず、熱意のありすぎる食い物描写が炸裂していた。


┃ 差し入れのもなか

三池監獄に送られてきた新規の囚人・三上真一郎(確か)。その女房・堀越光恵は身体の弱い彼を心配し、看守長・天津敏に頼んで監獄から炭坑までの道で彼の姿を見ることを許してもらう。彼女が身を乗り出した際、持っていた差し入れのもなか(よく見えなかった)が水たまりの中にぼたぼた落ちる。

┃ ウィスキー

囚人たちは劣悪な環境でカスのような食事しか食べていないにも関わらず、戒護課長・金子信雄はいつも何かをモグモググビグビしているのがこの映画の特徴。まずはウィスキーをグビグビ。

┃ 船倉の穀物

釧路集治監から三池への囚人移送船。囚人たちは船倉へすし詰めにされている。そこへやって来たのは護送主任・山本麟一。エラソーな態度を取ったため、手足を鎖に繋がれて片隅でおとなしくしていた北海常に、首に鎖を巻き付けられて絞殺される。まわりの囚人たちは山麟の死体の上に積荷の穀物を崩し、「主任さんが積荷の下敷きに〜〜!!!」と叫んで看守たちを呼ぶ。こぼれた穀物が山麟の顔にかかる。

┃ 酒

三池監獄のワル役人、典獄・安部徹らは三井三池坑長・遠藤達郎と癒着しており、囚人たちを牛馬の如く行使して生産高を上げさせようと目論んでいた。その賄賂会議でたしなむ

┃ 巻き寿司

郡司らの動きに不審を感じた金子信雄は、同房の老人・徳爺(谷村昌彦)を呼び出し、脱獄計画を密告するように促す。このとき金子信雄がモグモグしているのが巻き寿司。具はかんぴょう・たまごが入っているみたいだった。

┃ 坑夫の食事のかゆ

ワル役人たちは料理屋などで良いものを食べているが、囚人たちはそうもいかない。石炭採掘は重労働であるにも関わらず、薄いかゆ程度しか出ないのだ。かゆはぱっと見、ヤギの乳に玄米か麦かをほんの少し入れたもの、っていう外見。それをカマ口調の配膳係がグイグイこっちに迫りながらよそってくれる。

┃ みかん

徳爺は結局脱獄計画を謳わなかったため、リンチの末殺された。次に呼び出されたのは北海常。今度の金子信雄みかんをバクバク食っている。促された北海常もみかんをバクバク食う。だが、北海常もまた脱獄計画を謳うことはなかった。

┃ うどん

次に買収されたのは大木実。彼は別房の班長であり、郡司の脱獄計画に協力するという約束があった人物。しかし、うどんを食べさせてもらった大木実は郡司の脱獄計画を金子信雄らにバラしてしまい、郡司たちの脱獄計画はすんでのところでバレてしまう。素うどんで買収される男、大木実……。北海常や南利明らは爆破のどさくさにまぎれて脱獄するも、北海常以外のメンツは逃走中に殺されてしまい、北海常だけが生き残って屋外懲罰房へ閉じ込められる。
屋外懲罰房というと『脱獄広島殺人囚』の「お稲荷監房」だっけ、小さなお社のようなコンクリ牢屋に決まった姿勢で閉じ込められるというあれが思い出されるが、こちらはさらにひどくて、小さな猿の檻みたいなのに閉じ込められて天気関係なく放置されるという懲罰。この懲罰を受けた者は3日で死ぬという。

┃ 米びつ漁り

脱獄に失敗した郡司らは第一坑道を封鎖して立てこもりを決行。第一坑道は会社にとって重要な坑道であるため、三井三池鉱長の遠藤太津朗が解決を強行に指示してくる。立てこもる郡司らは持久戦となり、食べ物を節約していかに長期に渡って篭城するかに賭けることに。長期のストライキとなればなるだけ会社に損失が出て、会社が折れてくる可能性が高いからだ。もともと粗末だったかゆを小さな竹筒カップに分けてちゃんと計画的に食べていたけど(普段は粗末な茶碗で食べていた)、それも底を尽き、米びつを漁ったりするもそれもカラ。絶体絶命である。

┃ おひつのご飯・吸い物・たくあん

立てこもりの長期化……というかストライキの長期化に困り果てた金子信雄は、懲罰房に閉じ込めていた北海常に郡司の説得を依頼。なんと5日も懲罰房で耐えていた北海常を妓楼に連れてゆき、女郎に身体を暖めさせた。そして目の前に、炊きたてのご飯をおひつにいっぱい・吸い物・たくあん・おかずなどの食膳を出す。懲罰房はおろか、三池監獄ではありえない豪華な食事だ。郡司に義理立てしている北海常はそれに手をつけようとしなかったが、女郎が「食べられるときは食べておき、説得するかどうかは後で考えればよい」と促され、彼女によそってもらったご飯を食べ始めるのであった。