大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『陽のあたる椅子』カフェテリア形式の社食、葬式の寿司・供え物のリンゴ、お茶、接待のウィスキー・おかず系おつまみ、手作りの梅酒、ジュース、バーのウィスキー、枝豆、カルピス、ごぼう、ビール・ピーナッツ、弁当、2客のティーカップとケーキの銀紙

陽のあたる椅子

とある会社の経理課長が自殺。残務整理により、死んだ平川は340万円もの横領をしていたことが発覚する。会社は後任として堅物で真面目一徹の渋沢夏樹(加東大介)を抜擢した。ある日、渋沢のもとに平川の未亡人・澄子(白川由美)が面会にやって来る。横領分の返済のため、退職金等は会社が回収することを告げると、澄子は何も知らなかったと言ってひどく驚く。哀れに思った渋沢は数日後平川の自宅を訪ね、澄子に退職金等以上の賠償請求はしないで済むかもしれないことを報告。用を終えて帰ろうとすると、澄子は玄関で泣きながらうずくまった。このときから渋沢は澄子と関係を持つようになり、東北出張へ彼女を同伴するまでになったのだが……


東宝暗黒サラリーマン映画。いい話っぽく思えるのはタイトルだけ、実際の内容は暗雲たれ込めまくりな話で、池野成の不穏な音楽が不安感をあおり立てる。不安が無限連鎖し、最後の最後までイヤな方向のどんでん返しが待っているという暗黒っぷり。『ナニワ金融道』とか『ミナミの帝王』で地獄に墮ちる人を加東大介が演じている感じだった。


┃ カフェテリア形式の社食

オープニングは、ごく普通の会社員の会社生活を捉えたスチール写真。みんな揃って仕事して、みんな揃って休憩して、みんな揃って退社して、みんな揃って……、そういう画一的な会社生活の一環に、「昼休みに社食で昼飯を食う」という場面を捉えた写真が入っている。カフェテリア形式の食堂で、メニューは定食が多い感じだった。 

┃ 葬式の寿司・供え物のリンゴ

経理課長・野中の告別式。野中の家は新しく出来た大きな団地。誰もが羨むような最新の設備が整っている。その団地の部屋で、彼の告別式が行われている。喪主は奥さん・澄子で、狭い居間に祭壇がしつらえられ、弔問客が壁に沿って座っている。カメラ手前のほうに見えている座卓の上に、振る舞い用の寿司が置かれているのが見える。また、祭壇にはリンゴが盛られている。

┃ お茶

本作では会社生活や日常生活の場面でお茶が頻繁に出てくるのだが、あまりに多すぎて書いているときりがないので、1回分だけ。
平川の残務整理中、経理課長の立場を利用した380万円分もの使い込みが発覚する。役員会議の結果、後任には保守的で生真面目な渋沢が選出された。渋沢は庶務課課長(だったかな?)で、細かいところに異様に気がつく、真面目だけが取り柄の男だった。渋沢はさっそく経理課の部屋へ引っ越し。庶務課の事務員・市子(北あけみ)に湯呑みや荷物を持ってもらって、経理課の日当りのよい課長デスクへやって来たのであった。

┃ 接待のウィスキー・おかず系おつまみ

そこから渋沢の接待漬けの毎日が始まる。庶務課時代にはなかったクラブやバーづきあいに、酒にあまり強くない渋沢はすぐに参ってしまった。豪勢なクラブで出てくるのはウィスキーやおかず系おつまみ。プリント状態がそれほどよくなかったのではっきりは見えなかったが、本作ではなぜか唐揚げ(?)やサラダ盛り合わせのような、わりとガッツリ系おつまみが主流のようである。大きい皿に盛られているのも特徴。

┃ 手作りの梅酒

渋沢は平川宅を訪ね、未亡人・澄子に賠償請求はしない見込みだということを告げる。
澄子は台所へ行って、大きな魔法瓶(細長い炊飯器みたいな形状)から大きな氷の塊を取り出して、渋沢に冷たくした飲み物を出す。その飲み物というのが、田舎から送ってきたという梅酒。澄子は麦茶にしようとも思ったんですけど、みたいなことを言うが、なぜここで梅酒? 仕事で訪問してきてるのに?? と思うが、後々の展開を考えると脚本上の理由はある。いや、もしかしたら当時は梅酒がいまより気軽にジュース感覚で飲まれていたのかもしれないけど。氷がポットに入れてあるというのは面白かった。家庭には冷凍設備がそこまで普及していない時代だったんだろうね。

┃ ジュース

庶務課の社員・佐原(伊吹徹)と事務員・市子は不健全交際中である。渋沢からは「真面目につきあっているのか、ちゃんとしろ」と言われているものの、彼ら自身は渋沢のことを慕っているようだった。
澄子が住む団地にはなんと佐原も住んでいた。澄子を訪ねた帰り、渋沢は団地のプールで遊んでいた佐原と市子に出くわしてしまったのだ。その場はなんとかごまかしたものの、このままではいつか澄子との関係が会社に知れてしまうと考えた渋沢は、後々佐原が開設されたばかりの青森の現場へ飛ばされるように差し向けることとなる。
この団地のプールのシーンで、プールサイドのはつらつとした若者たちがジュースを飲んでいる様子が写る。

┃ バーのウィスキー

接待にもだいぶ慣れてきた渋沢は、バーでウィスキーをがぶ飲みできるようになっていた。酒癖が意外と悪いらしい渋沢に、他の部の部長や課長たちが絡んでいる。

┃ 枝豆

団地の入り口まで出張販売に来ているトラック八百屋で、澄子が枝豆の束を買うシーンがある。その後ろを密会に来た渋沢が通り過ぎてゆく。澄子は団地の人に気づかれないよう、そっと彼の後ろをついてゆく。
澄子が枝豆を(一人では食べきれないくらいの量の)束で買っているのは、渋沢が頻繁に彼女の部屋を訪れているということなのだろう。

┃ カルピス

澄子を東北出張に同伴し、松島で営業していた観光写真屋(沢村いき雄)に記念写真を撮ってもらった渋沢。ところがその写真屋が彼らの写真をボードに貼って掲出していたため、それを見た渋沢の旧友・荒木(有島一郎)が写真屋から澄子の住所を聞き出し、澄子の部屋を訪ねてきてしまう。焦った渋沢は地下街にある喫茶店で荒木と会うことにした。喫茶店は壁が通路に面してガラス張りになっており、ガラスの向こうに「東京デパート」「昭和堂」の看板(?)が見える。
荒木は出てきたカルピス(多分)を飲みながら、いまは旅行会社をやっており、その事業のために人付き合いをよくしたくて渋沢を訪ねてきたことを告げる。有島一郎、あやしさ爆発。

┃ ごぼう

澄子は生活のために洋裁店に勤め始めた。その仕事で、澄子は代田にある渋沢の自宅を偶然にも訪問することになってしまう。渋沢の娘がその店の得意客だったためだ。澄子が採寸をしているとき、これまた偶然に渋沢が帰ってきてしまい、気まずいことになってしまう。
その後、澄子の部屋を訪ねた渋沢は、二人で夕飯用のごぼうを裂きながら今後について話し合う。いや、ごぼうだと思うんだけど、あれは本当は何なんだろう。15cmくらいに切られた何か細長いものを二人してスーっと裂いてるんだよね。巨大ホワイトアスパラだったりして……

┃ ビール・ピーナッツ

実は荒木は市子と関係があった。荒木は市子から渋沢の弱みを聞き出そうとする。
二人がしけ込むボロい連れ込み旅館で出されているのが、ビールとピーナッツ

┃ 弁当

荒木の事務所は下町の川べりのボロい建物の中に入っている。これまたボロい事務所の中に荒木と数人の社員がおり、渋沢が荒木を訪ねていったときはその社員がモグモグと弁当を食べていた。

┃ 2客のティーカップとケーキの銀紙

荒木に脅迫された上に騙されて200万円分の小切手を略取された渋沢は、フラフラになりながら澄子の部屋を訪ねる。折角慰めてもらおうとして行ったのに、澄子は妙に冷たい。テーブルの上には「何故か」二人分の空になったティーカップと、ショートケーキの銀紙だけが乗った空のお皿2つが対面で置かれていた……