大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『最高殊勲夫人』ウェディングケーキ、披露宴のごちそうと乾杯、紅茶・レモンスカッシュ・いつもの・ハイボールのダブル・ジンフィズ、三原家のミルクティーとショートケーキ、「KICHIN MARUMAN」のランチ、野々宮家の朝食、秘書室でお茶、とんかつ屋でとんかつ&ビール、ラーメン・汁粉・デモ、きつねそば・めざし・おおぶりサンドイッチ・手製弁当・出前のラーメンとカレー・テイクアウトのサンドイッチ、旅館のお茶とお菓子、食堂の支那まんじゅう(肉まんとあんまん)と石焼き芋、野々宮家の紅茶、立ち食い甘味屋のあんみつ、サン

最高殊勲夫人 [DVD]
最高殊勲夫人

三原家次男・二郎(北原義郎)と野々宮家次女・梨子(近藤美恵子)の結婚披露宴。この両家の結婚式は、三原家長男・一郎(船越英二)と野々宮長女・桃子(丹阿弥谷津子)の結婚についで二度目である。貧乏な野宮家から会社経営一族の三原家へ嫁いだ桃子は、末妹の杏子(若尾文子)を三原家末弟の三郎(川口浩)と結婚させようと画策する。そのお見合いおばさん的策略に気づいた杏子と三郎は、自分たちは絶対結婚せず、お互いの恋人とゴールインすることを目指すことで合意、同盟を結成した。しかし杏子には実は恋人などいなかった。杏子は桃子のすすめで三原商事の社長秘書として働き始め、社内によい恋人候補がいないか探し始めるが、三郎はそれが気が気ではなく……


おしゃれでかわいいウェディングラブコメ
恋人探しに忙しいビジネス・ガールのお仕事ライフと恋愛模様を描く大映流サラリーマン映画。53年前にこんなおしゃれなラブコメが撮られていたなんて、昭和おそるべし。若尾文子川口浩ともカラッと明るくキュートな若者を演じており、大変魅力的。優柔不断で妻の尻にしかれながらもスイスイ〜ッと浮気をする(チューだけですが……)船越英二もナイス。


┃ ウェディングケーキ

映画は三原家次男・二郎と野々宮家次女・梨子の結婚披露宴からはじまる。豪華な広間で行われる披露宴、5段もあるゴージャスなウェディングケーキが新郎新婦の前に据えられている。コッテリしていそうな純白のクリームに彩られた背の高いウェディングケーキの、いかにも昭和らしいデラックスさがとっても素敵。てっぺんには麻雀牌のイーソー(一索)か金閣寺のてっぺんかというべきゴージャスな鳳凰が乗っかっている。このケーキへの入刀で、本作は幕を開けるのであった。

┃ 披露宴のごちそうとシャンパンで乾杯

会社経営一族の結婚式とあって、それはもう豪華絢爛な披露宴である。
パーティーは立食式で、純白のテーブルクロスが敷かれた大きめの四角いテーブルの上には松や菊といった大きな生け花(フラワーアート)が置かれており、その周囲に様々な料理を乗せた盆や皿が並んでいる。遠目にしか映らないので詳細なメニューはわからないが、見たところ、ローストビーフときゅうりなどのオードブル、チキンの丸焼き、パンなどのようだ。そして参加者全員の手元にグラスが行き渡ったら、新しい門出を祝う乾杯はシャンパで。乾杯の音頭は、なんだか知らんがえらい肩書きの多いオッチャンなのであった。
さて、そんな華やかな式の片隅に、やたらめったらたくさんの酒瓶が置かれたテーブルがあり(ボーイがいるので、お酒を出すカウンター用のテーブルだと思われる)、そのまわりでは酒好きオヤジ3人のグダグダ宴会が始まっていた。うちひとりのオヤジがメロンソーダの如きド黄緑のカクテルを飲んでいるのが気になる。ほかのオヤジは普通にウィスキーのようなものを飲んでた。

┃ 紅茶・レモンスカッシュ・いつもの・ハイボール・ジンフィズ

披露宴後、桃子の策略でデート?をすることになった杏子と三郎。ふたりは三郎行きつけのバー「スキャンダル」で話をする。「紅茶」と注文する杏子に、三郎はお酒ぜんぜん飲めないのと訊ねるが、杏子はお酒に興味がないと答える。それでも少ししゃれたものをという配慮からか、三郎は杏子にレモンスカッシュを、自分には「いつもの」(出た! 大人としていっぺんやってみたい注文!)を頼むのであった。
以降、バー「スキャンダル」は杏子と三郎の待ち合わせ定番スポットになる。
ちなみに、三郎の婚約者・富士子(金田一敦子)が来たときにはハイボールのダブルを注文していた。社長令嬢ながら、“前衛生け花” やフェンシングといったアクティブで男らしい活動に勤しむ富士子らしい注文だ。
また、三郎が富士子を杏子に紹介したときには、ジンフィズを注文する富士子に対抗して杏子もジンフィズを注文。三郎から「酔っぱらうぜ」と忠告される。

┃ 三原家のミルクティーとショートケーキ

結婚式から2週間、野宮家と三原家一同は、超豪邸な三原家のリビングで歓談。桃子はモダンなティーセットでミルクティを入れている。白磁幾何学的なデザインのカップ&ソーサー、ティーポット、ミルクピッチャーのセットで、いま見るとミッドセンチュリー風のデザインがとってもおしゃれ。底の広いケトル風のデザインのティーポットに、逆台形の直線的なフォルムのティーカップがおしゃれだ。現代的な桃子がいかにも気に入りそうなセンスのよい一品である。
なお、昔の映画を観ていると、登場人物が2個も3個も角砂糖を入れていることにびっくりするが、本作での一郎は1個だけだった。
一郎と二郎は一郎の自室へ行って結婚は人生の墓場トークをしているが、リビングでは引き続き桃子&梨子が地獄のガールズトークをしながらケーキをもぐもぐ。ちょっと厚めに切ったカステラの上にこんもり生クリームが乗っかっているような変な物体。スイーツを食みながら男の話をするのは50年前からの定番だったんですね。

┃ 「KICHIN MARUMAN」のランチ

桃子はランチタイムに三郎を呼び出し、近況報告を兼ねた作戦会議。
三郎は丸の内ビル地下の食堂街へ杏子を連れてゆき、いかにもリーマンのランチ向けに営業しているような「KICHIN MARUMAN」というカウンター式の食堂で彼女にランチをおごる。ほとんど立ち食いそば屋のような簡易な内装で、例えて言うなら、八重洲地下とか新宿紀伊国屋書店本店の地下にある、ちょっと薄暗い昭和のリーマン向け食堂街のような感じ。
杏子はサンドイッチと牛乳、三郎はカレーのようなものを食べている。三郎は、ガツガツ食いまくる杏子に感心。ほかの客(みんな一人で来ているサラリーマン男性)はパスタ風の平皿に盛られた麺類、ピラフ、ワンプレートランチのようなものを無表情にもぐもぐ。
店の外にある看板を見ると、ランチはほかにもポークカツ、ビーフステーキ、オムレツ、オムソテ、ハンバーグなどがあり、だいたい100〜200円で提供されているようだ。

┃ 野々宮家の朝食

杏子は桃子の勧で、三原商事の社長(一郎)の秘書として働くことになった。今日はその初出勤日、杏子は朝食もそっちのけで髪型のセットやらお化粧やらに大忙し。弟・楢雄(亀山精博)は食パンをかじりながらそんな姉をちゃかし、お父さんもちゃぶ台で新聞を読みながら朝食中。お母さんはお父さんへ持たせるお弁当を新聞紙に包んでいる。そのちゃぶ台の上が、トースターと茶碗と湯呑みが混在しちゃうっていう庶民テイスト溢れる混沌っぷりが良い。極めて平和な野々宮家の朝である。

┃ 秘書室でお茶

三原商事へ出勤した杏子は、社長である一郎にあらためてビジネス的挨拶。一週間杏子の面倒を見てくれることになった総務課の宇野(小林勝彦)が秘書室で紅茶を入れてくれる。お客さん用風のちょっといいティーセット。宇野に片思いしている一般女子社員・岩崎豊子(三宅川和子)は杏子へ対抗意識を燃やす。

┃ とんかつ屋でとんかつ&ビール

入社二日目、宇野は杏子を「割り勘で」夕食に招待。丸ビル地下のとんかつ屋ビール&とんかつで乾杯する。
白地に豚の絵が描かれているだけのモダンなのれんがかかったこのお店、店内のついたてにものれんと同じ豚の絵が描かれていて、いつも仕事帰りのサラリーマンたちで満席。噛むとサクサク音が聞こえるおいしそうなとんかつを安価で出すことからか、以降、杏子がお父さんやら仲間やらとちょっとした食事をするときにはこの店に来ることが定番化する。

なお、本作で登場するタカラビールタカラビールはかつて宝酒造宝ホールディングス株式会社)が製造していたビールで、現在は存在しない。1957年に発売されたものらしいので、59年公開の本作はわりと発売当初での登場か。
宇野は「ビール三本までは善良そのもの」らしいが、「四本目で女性の身体にむやみと触りたくなる」「キスしたがる」らしい。そして五本飲むとホテルへ行きたくなり、六本飲むと……? それは後々のシーンで明らかになる。

┃ ラーメン・汁粉・デモ

杏子は恋人探しに入社してきたフリーの身で、彼女が宇野と「割り勘で」デートしたことが社内に知れ渡り、三原商事の独身男子社員は大騒ぎ。「こんどラーメンつきあってください、すっごくおいしいラーメン屋知ってるんですよ、しかも70円! おごりがイヤなら割り勘でもいいですよ」「うまくて安い汁粉を割り勘でどうでしょうか」「明日割り勘でデモへ行きませんか」と庶民派グルメの割り勘デートのお誘いが殺到する。……って、デモを割り勘ってなんだ。

┃ きつねそば・めざし・おおぶりサンドイッチ・手製弁当・出前のラーメンやカレー・テイクアウトのサンドイッチ

ここは野々宮お父さんが経理課長として勤める会社。お父さんはあと3ヶ月で定年退職なのだが、社長に呼び出され、定年を前にして「定年までの給料は出すから、明日からもう来なくていい」と早期退職させられる羽目に。しかも呑気にきつねそばをすすりながら言われたもんだからたまらない。社員たちもその様子を気に留めるというほどでもなく呑気に昼食を食べている。女子社員は丸の内OLに憧れるワーって話をしながらおおぶりサンドイッチや手製弁当を食べ、男子社員は将棋をしながら出前のラーメンやカレー、テイクアウトのサンドイッチなどを食べているが、その中にめざしを卓上コンロで焼いている豪傑女子社員がいるのが良い。休憩室でやってるとかじゃなくて、普通にオフィスの片隅で。煙がもうもうと出てるんですが……。優しい彼女はめざしを一匹、野々宮お父さんに恵んでやるのだった。

┃ 旅館のお茶とお菓子

芸者・ポン吉(八潮悠子)と鬼怒川温泉へ一泊旅行に行くことを目論む一郎。社長室で交わされたその相談を耳にした杏子は、三郎にその計画を阻止してくれるように頼む。宿へ先乗りしていたポン吉は、一郎が到着するやいなや、出迎え用に出されたお茶やお菓子に手を付けないうちに一郎を誘惑。しかしそこへ突如現れた三郎に、一郎はジャンピング土下座してしまう。一郎を連れて行かれてしまったポン吉はお菓子をバクっとかじり、他の旦那へ電話をかけて熱海旅行の約束を取り付けたのであった。

┃ 食堂の支那まんじゅう(肉まんとあんまん)と石焼き芋

会社のお昼休み、杏子は岩崎豊子に呼び出される。豊子の頼みは、三原三郎と結婚して、社内男子を惑わせるのはやめてほしいということ。
豊子は宇野に片思いしており、杏子が入社するまでは豊子は毎日宇野と5本立ての映画を観に行ったり、並のとんかつを食べにいったりしていたらしい。そして、どうももう深い仲にもなっているらしい。それを聞いた豊子に宇野を譲り、彼女を応援することにして、食堂の支那まんじゅう(肉まんとあんまん両方)と石焼き芋をおごってもらう約束をする。
杏子は野内(野口啓二)と共に宇野&豊子をとんかつ屋へ連れてゆき「宇野さんと岩崎さんはお似合いだと思うの」と告げる。「6本飲んだら結婚したくなるでしょ?」とビールを促された宇野は杏子をあきらめて豊子を選ぶことにして、そのお祝い?の6本ビールをついでもらうのであった。

┃ 野々宮家の紅茶

三郎の勤め先、大島商事の社長令息で現在はテレビ局ディレクターの大島武久(柳沢真一)は杏子に惚れていて、正式に結婚を申し込んでいる。三郎は野々宮お父さんから再就職先を探してほしいと頼まれており、大島を通じて新興のテレビ番組制作会社の勤め口を紹介してもらった。今夜はその報告と説明のため、大島を伴って野々宮家を訪ねていた。
居間でお父さん相手に妙に壮大な話をする大島の声を聞きながら、お母さんと杏子が台所で紅茶を入れている。野々宮家には三原家のようなおしゃれなティーセットはないので、茶葉をヤカン(金色のアレ)に直接投入して煮出したものを、茶こしを通してティーカップに注いでいる。しかもティーカップが全員分揃っておらず、柄やデザインがまちまちなのが貧乏くさくてナイス。あと、茶こしに茶葉が山盛りになっちゃっているのも泣ける。
ちなみに大島は「焼酎よりもコニャック、満員電車よりも最新型のキャデラック、餃子よりも一流レストランのフルコースを好む男なんですが」と自分で言い出すDQN。一方、三郎は「僕は焼酎や餃子のほうが好きなんだけどな〜」と庶民派自己PRするのであった。

┃ 立ち食い甘味屋のあんみつ

丸ビル地下の食堂街。山吹色のアクリルに「おしる古」と書かれた看板のかかった立ち食い甘味屋の店頭で、ビジネスガールたちがあんみつを食べている。お昼休みにあんみつを食べにくるのが最大の生き甲斐だそうだ。ほかには更級のそばも悪くないとも。この店はピンクの壁に赤いテーブルという内装もかわいく、おかみさんの「ワーンお汁粉〜、ツーみつ豆〜、あんころもち〜」というオーダーの通し方もナイス。奥にはテーブル席もあり、三原商事の女子社員たちが社内人事の噂に花を咲かせている。
一方、その隣、「KICHIN MARUMAN」では、三郎と富士子がお茶を飲みながら別れ話をしているのだった。

┃ サンドイッチとチキンライス

会社で二郎と話している一郎のもとへ、桃子から「三郎が大島商事へ辞表を出し、富士子との婚約を解消した」という電話がかかってくる。そしてさっきレストランでサンドイッチを食べていたら大島社長が入ってきて、100円のチキンライスを食べていた、案外ケチね、というどうでもよすぎる話を嬉々としてする桃子に、一郎はちょっぴりうんざりするのだった。

┃ ロカビリー喫茶

桃子は杏子が野内と親しいことを知り、会社の人事に介入して野口を札幌へ飛ばすことにしてしまう。ショックを受ける野内に同情した杏子は、彼と結婚することに。杏子はロカビリー喫茶のカウンターでそれを報告するが、逆にお互い本当はお互いのことが好きだと再確認し、結婚を約束しあうのだった。野内には彼を思い彼に尽くす女子社員がいたので、これですべて丸く収まったというわけ。
このときは杏子・三郎ともに同じお酒を飲んでいるっぽい。わざと離れた席に座って、大声を出し合って話しているのがカワイイ。

┃ そしてまたウェディングケーキ

そして最後のシーンは杏子と三郎の結婚式。
一郎&桃子、二郎&梨子と同じ結婚式場で、同じように豪華な5段飾りのウェディングケーキが彼女らの前に据えられている。そして記念写真にはわざとヘン顔で写る杏子&三郎カップルなのであった。

┃ おまけ 登場人物の名前

野々宮家父=林太郎、母=杉子、弟=楢雄と、野々宮家は樹木シリーズで名前が揃っているのだが、三姉妹は木に生る果物の名前になっている。
野々宮家長女=
    次女=
    三女=
 長女の息子=カツオ(突然魚類化)