大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『薔薇の標的』(1980/東映)ホテル「クォーターマスター」のカフェ、フランスパン、ゴージャスなディナー、喫茶店「サンランプ」、テキーラ、ウィスキー、ママのおごりのウィスキー

薔薇の標的 [DVD]
薔薇の標的

野本宏(舘ひろし)は四年前、麻薬取引の現場に警察に踏み込まれたばかりか、何者かによって弟分を射殺されていた。誰かが取引を警察に密告したのである。出所した野本は当時のボス・井戸垣(今井健二)への復讐を誓い、仲間である門田(内田良平)の誘いで井戸垣と王兆徳(草薙幸二郎)の大規模な麻薬取引現場を襲撃する計画に乗る。一方、野本は昔の女・杏子(中島ゆたか)に再会するが、彼の出所を待てなかったという彼女は、今は大金持ちの愛人になっているらしかった。


ハードボイルドアクション。
加山雄三版かと思ってよく見ずに借りてきたら、舘ひろし版だった……。なのでこの映画に罪はないのではあるが、「好きな人は好きなんだろうな〜」としか言いようのないスタイリッシュさ溢れるセンスに涙がこぼれるほかなかった。

┃ ホテル「クォーターマスター」のカフェ

門田の行きつけのプチホテル「クォーターマスター」。アーチになった鉄格子のエントランスをくぐり、たくさんの緑で飾られたアプローチを抜け、こじんまりとした白い扉の玄関から中に入ると、そこはアットホームなカフェ&ホテルになっている。……このホテルがいかにも80年代感があって泣かせる。清里とか軽井沢とかの、いまは寂れた避暑地にありそう。もう少し言えば、吉祥寺とか横浜とかの都心からちょっと離れた高級住宅地系の地域にある素人経営の豪華めのカフェというか……。おばさまが趣味で経営しているような、自宅を改装した喫茶店みたいな感じ。ロココ調のようなそうでないような、ゴージャスと安っぽさが同居する内装が本当泣かせる。美輪明宏系のセンスのケバいマダム&ド真っ黄のエプロンをした阿婆擦れにしか見えないアニメ声メイドもすごい。ある意味、完璧。
……と余計な話が長くなったが、門田は長らくここでツケを溜めまくっているらしく、メイドにぶーぶー言われながらも、連れ込んできた野本にをおごる。酒瓶のラベルが剥がされているところが泣ける。スポンサーが取れなかったのかなと思ってしまった。
門田の紹介で襲撃計画の仲間に入った元麻薬捜査官の男・中尾(本間優二)と野本との顔合わせもこのホテルの2Fの客室で行われる。そのときの乾杯の酒もきっとツケで飲んでいるのだろう。

┃ フランスパン

自室に帰った野本は、薔薇を一輪コップに差して部屋の真ん中に据え、それを前にフランスパンをナイフで切りながら朝食を取る。失礼ながら自分に酔いすぎなシーンだと思ったのだが、きっと当時はこういうのがカッコよかったんだろうなあ……。

┃ ゴージャスなディナー

野本のかつての恋人・杏子は、今では組織の黒幕・浜田(佐藤慶)の愛人になっていた。照明を落とした高級レストランで食事する二人。多分ゴージャスなディナーという設定なんだろうけど、すべてのメニューがテーブルに一度に乗っちゃってるところとか、サラダが木製ボウルに入っているところだとか、ステーキが絵に描いたようなわらじ状のステーキだとかで、今観るとファミレスでメシ食ってるようにしか見えないのが泣ける。当時はこういうサービスを行うレストランも高級店の部類だったのだろうか。

┃ 喫茶店「サンランプ」

横浜の喫茶店「サンランプ」。ここがまたいかにも80年代前後っぽい素人経営感溢れる喫茶店で泣かせる(さっきからあまりの80年代感に泣きっぱなし)。いまはこういう喫茶店はかなり減少しているのではないだろうか。仲良くなるとマスターが昔の武勇伝を語り出すような感じの店……。そんな「サンランプ」のカウンターでを飲んだ野本は早々に立ち去ろうとするが、「いまは落ち目だが、昔はハマで鳴らしたミュージシャン」だという男(松田優作)が流しに現れる。野本は蔑んだ目で彼にチップをやるのだった。

┃ テキーラ

野本が花屋の前でぶつかり、その後「サンランプ」の近くで偶然再会する不思議な女。彼女はメキシコに赴任している父親からメキシコへ来るよう呼ばれたらしく、野本に「あのね、いま、テキーラを飲む練習をしているんですよ☆」と謎のアピールをしてくる。当時はこういうのが萌えキャラだったんでしょうね……。
……………すみません、本当のこと言うと、この女性がストーリーにどういう関係があったのかサッパリ忘れてしまいました……。

┃ ウィスキー

麻薬取引現場の襲撃自体は成功するものの、逃げる際に中尾が殺され、門田と野本は二手に分かれて逃げることに。野本は中尾の取り分を彼の妻のもとへ持って行くが、中尾の家で井戸垣一派に待ち伏せされ、襲撃される。深手を負って帰った野本を介抱する杏子に、野本はウィスキーを一杯注いでくれるよう頼む。

┃ ママのおごりのウィスキー

資金を得た門田はビシッとした身なりで「クォーターマスター」を訪れ、いままでのツケを一気に清算する。キリスト教系の施設に預けてある小児まひの息子に将来安心して暮らせるだけのお金を渡して別れを告げ、海外へ高飛びするというのだ。ママはそんな門田に別れの盃としてウィスキーをおごる。