大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『夜汽車の女』水城家の晩餐、居酒屋のビール、いちご、マシュマロ、ソフトクリーム、スープ、オレンジジュース・コーラ、ホテルのバー、クロワッサン・トマトジュース

夜汽車の女 [DVD]
夜汽車の女

  • 1972年/日活/カラー/71分
  • 監督=田中登
  • 脚本=宮下教雄
  • 出演=田中真理、続圭子、桂知子、織田俊彦、雪丘恵介

冴子(田中真理)と裕美(続圭子)の姉妹は、裕福な考古学教授・水城(雪丘恵介)に大切に育てられた仲の良い姉妹である。妹の冴子は異常なまでに姉・裕美を愛しており、その独占欲にはすさまじいものがあった。冴子は姉が父の弟子・有川(織田俊彦)にプロポーズされたと知るや否や、二人の仲を裂くために有川を誘惑して自分の肉体の虜にしてしまう。まんまと罠にかかった有川は冴子に夢中になってしまい、裕美と別れて冴子と結婚したいと言い出す。そんな気がない冴子は有川を馬鹿にするが、ある夜、水城家に事件が起こる。


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おとなしい姉と活発な妹の華麗なる姉妹、教授の娘婿という地位目当てで姉と結婚したがる真面目キモ男、屋敷に仕えるおかっぱミニスカメイドは主人と関係があり……というてんこ盛りにもほどがある設定ながら、出刃包丁のようにバッツリぶった切るドライな演出がそれを凡庸には見せていない。これだけベッタベタな要素を詰め込んで、よくこんな話に仕上げられたな〜と単純に思う。

┃ 水城家の晩餐

水城教授を通じて姉・裕美に結婚を申し込んだ有川は、水城家の晩餐に招待される。絵に描いたような金持ちである水城家の晩餐は、薄暗い食堂で白いテーブルクロスのかかった長いテーブルにホスト・ゲストが向かい合って座り、一家のメイド・ひろ子(桂知子)が各席を回ってスープを給仕していくという絵に描いたような金持ちの晩餐すぎてちょっと感動した。

┃ 居酒屋のビール

姉・裕美は有川に誘われてデートへ出かける。映画を観て、場末の居酒屋でビールで乾杯するという庶民的なデート。居酒屋がいくらなんでもそれはまずいだろというド場末感炸裂で、観る者を不安にさせる。

┃ いちご

一方その頃、水城邸では妹・冴子が姉の帰宅が遅いのをイライラしながら待っていた。冴子は自分からお姉さまを取ってしまおうとする有川を憎悪していた。デザートらしきいちごをいちごスプーンで異様に残虐にブチュブチュつぶすさまがナイスである。

┃ マシュマロ

冴子の姉に対する思慕は常規を逸したものだった。広大な邸宅の庭で子供のように一緒に遊び、一緒にお風呂に入り、いちゃいちゃ。「わ〜お姉さまのオッパイ、マシュマロみたい♪」と姉の乳房に吸い付く冴子。漫画ではよく見るやりとりだと思うんですが、実写で初めて見たのでちょっと感動しました。しかも女優さんが完全に目ぇ据わっているところが良いです。

┃ ソフトクリーム

メイドのひろ子の休暇日。彼女は外出許可を得て、どこかへと出かけてゆく。あの子、休みの日に出かけるときいつも同じハンドバッグよね、あの子にも行くとこあるのかしら、と軽蔑しきった口調でひろ子のうわさ話をする姉妹。さて、ひろ子がどこへ出かけていったのかと言えば、彼女は高速道路にかかっている陸橋の上で、ソフトクリームを舐めながら車の列を見下ろしているのだった。この陸橋がまた郊外感というか、地方都市のそのまた郊外の、ほとんど山ン中という感じの場所で大変よかった。生活感のある殺伐感・荒涼感があって味わい深い。

┃ スープ

水城家のお父さまはひろ子との情事の最中にはりきりすぎて脳の血管が切れてしまったらしく、首から下が不自由な身体になった。ひろ子にスープを飲ませてもらうお父さまをまるでなにかそういう「モノ」を見るような目で見つめる姉妹。

┃ オレンジジュース・コーラ

冴子の肉体の虜になり、裕美を捨てて冴子と結婚しようとした有川だったが、実は冴子は水城教授の血をついだ子ではないことを知り、やっぱり裕美と結婚しようとする。それを知って傷ついた裕美は何か思い入れがあるらしき信州の避暑地へと旅立つも、彼女を追いかけてきた有川の肉体に魅了され、二人の仲は元の通りどころかむしろラブラブに。さらに冴子も姉を追い夜汽車で信州へ。ホテル(?)のオープンエアのカフェで3人はオレンジジュース・コーラを飲み物にして面談するが、姉妹のあまりの緊迫感にびびった有川はテーブルの上のコーラのグラスをおもいっきり倒してしまう。いや、わざと倒したのかもしれない。

┃ ホテルのバー

ホテルのバーでさらに面談を続ける3人。ちょっとうろ覚えなのだが、冴子と裕美はカウンターで話をしていて、有川だけが少し離れたテーブル席で酒を飲んでいる、というシーンだったかと思う。夜汽車の中からずっと一緒だった派手な身なりの若者4人組のうち、あまり喋らない男がずっと冴子を見つめているのが印象的。

┃ クロワッサン・トマトジュース

それからどれくらいの時間が経ったのだろう。姉妹がいなくなった水城家は荒廃しきって、室内には何故か無数の観葉植物がひしめいている。しかもやたら大振りで葉が伸びたものがしつらえられており、植物園の様相。キッチンのテーブルをベッドにして、ひろ子が男(後半の鍵となる人物)と抱き合っている。このときその二人の手前にある重なった皿の上に、クロワッサンが置かれているのが見える。
これまた観葉植物だらけの階段をヒタヒタとのぼってゆくひろ子。持っているクロワッサンが皿から落ちて、階段を転がり落ちてゆくことをまったく気にしていない。ひろ子は荒廃した寝室に横たわる水城教授に、まるでエサをやるように(わざと食べにくいようにしながら)クロワッサンを与える。そして、吸い飲みに入れたトマトジュースをやたら高い位置がらドバーーーッと与えるのであった。