大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『昭和おんな博徒』かつぶしの入っていないみそ汁、山盛りご飯、すきやき、お酒とみかん、鯉


昭和おんな博徒

お藤(江波杏子)が父の仇と襲撃した男は、実は人違いだった。しかしその侠客・巽(松方弘樹)は彼女の事情を察し家に置いてやる。巽は堀川一家の跡目に内定するが、それを妬んだ兄貴分の森戸(渡辺文雄)は代議士・大田原(山本麟一)と内通し堀川を裏切ろうとしていた。森戸は客分・島崎(天知茂)に巽殺しを依頼するが、一対一で勝負しようとする島崎の意図に反し、横入りした森戸の子分が集団で巽を殺してしまう。島崎はお藤のもとへ巽の亡骸を届け、自分が仇であると告げた。愛する男を失ったお藤は渡世人となり、復讐へ旅立つ。一方、島崎もまた森戸のもとを離れ、結核の妻を伴って旅人の身となるが……


暗く陰鬱な女侠もの。「緋牡丹博徒」のようなロマンチックな雰囲気はなく、全編ひたすら陰々滅々としている。
雨・蒸気・湯気・雪解け水で画面は曇り遮られ、ストーリーの要所では常に雨が降っている。その中で江波杏子の「この人、ちょっとおかしいのでは?」という陰性の雰囲気がプラスに作用している。清廉な渡世人役の天知茂が良い。

┃ かつぶしの入っていないみそ汁

巽の家にはサブちゃん(遠藤辰雄)が同居しており、炊事洗濯は彼の仕事である。このサブちゃんが作っているのが、かつぶしの入っていないみそ汁。お藤に気をとられてかダシを取り忘れたサブちゃん、巽に注意される。しかも「味噌もすってないだろう」と言われてしまう。みそ汁に入れる「味噌をする」というのはどういう状態のことなのだろうか。味噌を入れるときにダマにならないよう、網杓子の上で漉すように溶くことを言っているのかしらん。

┃ 山盛りご飯

巽は森戸と共に親分に呼び出され、巽が二代目に内定したと告げられる。親分の家から帰ると、サブちゃんが山盛りご飯を手に出迎えてくれる。しかし、いつの間にかお藤が姿を消している。サブちゃんはご飯に夢中で、言いつけられていたはずのお藤の監視を怠っていたようだ……。
鉄橋から線路への飛び込み自殺しようとしていたお藤を引き止め、気兼ねなく家にいるように言ってくれた巽に心惹かれてゆくお藤。炊事洗濯はサブちゃんに代わって彼女が担当することとなり、巽家ではおいしい食事が出るようになる。炊事場で何かを煮ているお藤が映るのだが、このとき彼女が鍋に入れているのがどうも昆布茶に見える。赤くて小さい円筒形の缶から小さじで何かをサラサラ入れると言えば昆布茶としか思えないのだが、何を作っていたのだろうか。彼女は大店のお嬢さんなので、いままで炊事などしたことがないらしいが、料理の腕は上々らしい。

┃ すき焼き

そんな巽家に刺青師のトッツァン(汐路章)が訪ねてくる。巽はすき焼きを出してトッツァンをもてなす。鍋の中は映らないので本当は何なのかはわからないけど、ちゃぶ台に卵の殻が置かれていることからすき焼きと判断。久々の再会に会話がはずむ二人の横で、サブちゃんが豆腐を投入している。

┃ お酒とみかん

巽とお藤の今生の別れとなる場面で登場するのがお酒とみかん。巽はお藤に熱燗をつけるよう言うが、そのときお藤が何故かみかんを一緒に出してくる。定番アイテムとして果物を出したかったんだろうなとは思うが、さすがにこれはちょっと苦しくないか……

┃ 鯉

時は流れ、島崎は結核の女房を伴って九州は加倉井一家にわらじを脱いでいた。出先からの帰り、島崎は病気で臥せっている女房のため、をひもに吊るして持って帰ってくる。隣のおばさんに頼んでこいこくと洗いにしてもらうのだ。島崎が鯉を預けて女房の世話をしていると、隣のおばさんがオチョコに入れた鯉の血を持ってきてくれる。女房はこれをぐいっと飲み干すのであった。