大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『宮本武蔵』(1973/加藤泰)さつまいも、魚の干物、赤い実、沢庵、お茶


宮本武蔵

作州宮本村の武蔵(たけぞう=高橋英樹)と又八(フランキー堺)は関ヶ原の合戦に参加して名を上げようとしたが、彼らのついた西軍は戦に破れ、又八はどこかへ姿を消し、武蔵ひとりが村へ戻る。又八の母・お杉婆(任田順好)は息子が帰らないことに激怒し、武蔵を沢庵和尚(笠智衆)に折檻してもらう。ところが武蔵と彼を追った又八の許嫁・お通(松坂慶子)が村を出奔。お杉婆は大激怒して武蔵を日本中追いかけ回すことに。そして3年後、武蔵は「たけぞう」から「むさし」へと名を変え、宮本武蔵と名乗って各地の名門道場を道場破りして歩く武芸者となっていた。武蔵は京都の吉岡道場に挑戦するが、その道場の当主・清十郎(細川俊之)はある料理屋の娘に惚れて入り浸りになっていた。その娘というのが実はかつて武蔵・又八が関ヶ原の合戦のおりに偶然出会った娘・朱実で、その母・お甲の旦那になっていたのがあの又八だったのである。


宮本武蔵加藤泰版。
武蔵役が高橋英樹というのはわかるが、小次郎役が田宮二郎とはこれいかに、と思っていたが、これが意外にも適役でビックリした。清潔感のある武芸者というたたずまいがピッタリ。
ローアングル撮影が極まっており、もはや視点が低い程度の次元ではない。異常に低いカメラの視線は地面から半分顔を出している状態。グラウンドラインは画面下部に引かれ、ギリシアの壷絵状態になっている。水辺のシーンでは水中からの撮影が多用され、川岸のシーンならカメラには川の流れ・飛沫がかかり、浜辺なら波がかぶる。草葉の陰視点というか、死後の世界から現世を覗き見ているような感覚に陥る。劇場で観るなら出来るだけ前のほうに座り、スクリーンを見上げる視線になる席にすると迫力が出る&なんとなく自分も見上げ視線になって楽しい。

┃ さつまいも

細川道場から武蔵への挑戦状は、五条大橋のたもとへ立て札を立てるという形で開示されている。この立て札の前にはいつも民衆がわさわさと集まっており、人々はさつまいもをかじりながらうわさ話に花を咲かせている。

┃ 魚の干物

そんな細川道場への挑戦も三度目、今度は年端もいかぬ子供(と手助け群衆)を相手にすることに。
からしいことであるが、と宿の主人に漏らしながら武蔵が食べているのが魚の干物。小ぶりなものを指でモシャモシャ食べているのだが、身がふっくらしていて美味しそうだった。

┃ 赤い実

橋の上で再会した武蔵とお通。お通は武蔵に赤い実を渡す。……渡したと思う。プリントのコンディションがかなり悪かったのと、自分がぼーっとしていたのとで、よく見えなかった。

┃ 沢庵

細川忠利(浜畑賢吉)に勧められた小次郎との対決を回避し、また、町の刀研ぎ(たましい研究所?)・汐路章から剣の曇りを指摘された武蔵は自信をなくし、沢庵和尚に教えを乞うため、いま彼が和尚を務めているという大津の寺を訪ねる。なんとそこには又八がいた。彼はお甲・朱実と別れ、仏門に入っていたのだ。沢庵和尚と武蔵が話している傍らで、又八が沢庵作りに精を出している。塩の量で注意されたりしながらも、地道に、こつこつ、丁寧に作っていた。

┃ お茶

小次郎との対決を前に、船宿で櫂のようなものを作っている武蔵。時間を気にした細川公の使者がせかしに来るが、無視。
その横で船宿の主人・有島一郎お茶を立てている。武蔵は丁寧に立てられた茶を啜り、有島一郎に干潮の時刻を訊ねるのであった。
この際、茶を立てる有島一郎の手元がローアングルゆえにドアップになっている。有島一郎の品性あるシニアっぷりが発揮された場面だった。