『車夫遊侠伝 喧嘩辰』駅売りの瓶酒、たいやき、ラムネ、巨大おにぎり
時は明治。大阪へ流れてきた喧嘩っ早い車引き・辰五郎(内田良平)は「御荷物御乗物」を旗印に大阪駅前で大暴れ営業中。客として乗り込んできた気の強い芸者・喜美奴(桜町弘子)にカチンときた辰は彼女を車ごと川へ放り込んでしまう。喜美奴の旦那・西川の親分(曽我廼家明蝶)に呼びつけられるも、喜美奴に惚れたと言い出す辰、喜美奴も辰に惚れたというものだから、西川の親分もエーイとなって二人に祝言を上げさせる。ところが新婚旅行先の有馬温泉で喜美奴は西川の親分の二号さんになる予定だったと聞かされた辰はやめたー!と言い出して帰阪、大混乱。その頃、西川の親分の兄・光川(近衛十四郎)の道場に東京から来た道場破り・矢島(大木実)が現れていた。
きらきら輝く明治ジェットコースターロマンス。やたら元気いっぱいできっぷのよい登場人物たちが愛おしく、辰と喜美奴の三度にわたる祝言の顛末にハラハラさせられる。登場人物がみんなが大変に魅力的。特に西川の親分を演じる曽我廼家明蝶、ちょっとバカだがオチャメで情に厚く思いやりがあって、子分たちがついてくるのがよくわかる。刑務所に入る親分の壮行会を刑務所前で壮大に執り行うさまは爆笑(しかも親分、書状を逆さまに読んでいる)。
モノクロ映画だが、私の心には彩り豊かなまばゆい世界が投影されている。ああ、この映画の中の登場人物になりたい。
┃ 売り子のサブちゃんが売る瓶入り酒
喜美奴が実は西川の親分に迎えられる予定だったと知って有馬温泉から帰ってきた辰は、仕事中も飲んだくれ。彼が飲んでいるのは駅の売り子の北島三郎が売っている瓶入りの酒。サブちゃんが首から下げた木箱には小瓶サイズのキャップ付き瓶(コルク栓が針金で固定してあるようなヤツ)の酒が何本も乗っている。辰はこれをツケで飲んでいるらしい。
┃ お見舞いのたいやき
辰が住み込み先にしている弟分・河原崎長一郎がケガをして仕事を休んでいるとき、喜美奴の妹分芸者・藤純子がたいやきを手みやげに見舞いに来る。しっぽまであんこが入ったおいしいたいやきだそうだ。河原崎長一郎は藤純子に「あーん」してもらっていた。
┃ 駅の売店のラムネ
そんな河原崎長一郎と藤純子がデキたことを辰に知らせにいく喜美奴。西川の親分のことでまだ喜美奴を避けている彼は、駅の待合室でその話を聞く。そのとき「暑いなあ」と駅の売店で喜美奴におごるのがラムネ。もちろんツケである。駅の売店でツケ飲みする男、それが辰五郎。男のカガミだぜ。