大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『日本の黒幕(フィクサー)』ご飯とみそ汁とたくあん、お茶とメロン、カレーライス

日本の黒幕(フィクサー)【DVD】
日本の黒幕(フィクサー

首相を影から決めることも消すことも出来ると言われる右翼の大物フィクサー・山岡邦盟(佐分利信)は、平山首相の外為法違反疑惑で家宅捜査を受けていた。その混乱に乗じ、足の悪い美少年(狩場勉)が単独で邸宅に侵入し山岡の命を狙うも、山岡の気迫によって事を成せず、山岡側近の書生・今泉(田村正和)に取り押さえられる。山岡はこの美少年を「一光」と名付けて寵愛するようになるが、今泉の心中は複雑だった。政治情勢の混乱はさらに加速し、対抗勢力によって山岡派は追いつめられる形となる。一方、今泉は山岡の娘・雅子(松尾嘉代)と恋人同士であり、雅子は山岡に結婚の許しを得ようとするが……


末期東映ヤクザ路線にふさわしい退廃的腐臭を放つ奇作。ヤクザ映画というよりは右翼とそれに絡み付くヤクザ、闇に生きる黒幕たちの暗闘を描く作品と言える。佐分利信がいきなり胸をはだけて有島一郎がオイオイ泣きながらそれにすがりつくとか、やたら濃厚な衆道テイストに驚かされる。佐分利信の日本映画最高クラスの上から目線と松尾嘉代のタカビー(死語)演技も見物。

┃ ご飯・みそ汁・たくあん

山岡邸に侵入し取り押さえられた美少年は、倉庫内に監禁される。ご飯・みそ汁・たくあんと言った食事が出されるが、航空機納入に絡む汚職によってアメリカ側から多額の賄賂を受け取ったという山岡の出すアメリカの銭で買った汚いものは食えないとこれを拒否。衰弱してしまう。

┃ お茶とメロン

政治情勢が混乱する中、今泉は山岡一家のお茶に呼ばれる。今泉は山岡が中国からの引き上げ時に連れて来た子供ということで他の門下生とは違う格別の寵愛を受けており、山岡の妻からも家族のような扱いを受けているのだ。その華麗なる一族的なお茶の席、なぜかお茶と一緒にメロンが出されていた。お茶というよりメロン主体では。

┃ カレーライス

本作ではカレーライスがストーリーの鍵となっている。
山岡配下の右翼団体の末端メンバー・沢井(尾藤イサオ)は特段右翼的思想を持っているわけではない。ところが、匿っていた組織の構成員が彼の妻を輪姦の上殺害。妻の死体は河原の土手に埋められており、ひき逃げして埋めた形跡があると刑事から聞かされて衝撃を受ける。山岡邸を訪れた沢井は、泣きながら今泉にこう告白する。
「先生の門下とは言っても、みながみな強い人間ではありません。私などは若いころ、一杯のカレーライス食いたさに街宣車に駆り出され、この道に迷い込んだだけなんです」

クライマックス。山岡は一門を解散し、航空機スキャンダル国会の証人喚問に出席する。
山岡邸を離れた一光は、銀座の街中を袱紗に包んだ短刀を持って歩いてゆく。そして一軒の大衆食堂に入り、カレーライスを食べながら店内に置かれたテレビの国会中継を見つめる。そして首相官邸の前に行き、山岡を裏切り陥れた平山前首相を刺殺、しかし、平山の支援者たちのリンチを受け、自らも血塗れになってしまうのだった。

県警対組織暴力』でもそうだが、カレーライスというのは貧乏人のちょっとしたごちそうとして位置づけられている雰囲気がある。ごちそうと言っても高価・高級な食事という意味でなく、普段の生活の中の一瞬の潤いと言うべきか、それくらいしか許されない経済状況と言うべきか。沢井も一光もただの野良犬、一般人で、それがちょっとした切っ掛けで向こうの世界へ簡単に落っこちるということをカレーライスが示しているような気がする。
特に一光については自分の意志を表したり素性をかいま見せるシーンが一切ないため、山岡から離れひとりになったときい食べるカレーライスはことさら印象的である。