大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『若い季節』飲む白粉、野菜炒め丼、料亭の焼き魚、喫茶店“トップ”のメニュー、巨大おにぎり、コーヒー牛乳とあんぱん、オレンジジュース、ケーキ


若い季節

新進化粧品会社・プランタン化粧品の社長・ケイ子(淡路恵子)は自信の新製品“飲む白粉”ドリンク・ローズの発売を数日後に控えていたが、ライバル会社のトレビアン化粧品のまったく同じコンセプトの商品・ホワイトロマンの広告が新聞に載っているのを見て仰天。あまりの類似から、社内に産業スパイがいる疑惑が持ち上がる。ケイ子社長から調査を命じられた人事課長・有馬(有島一郎)は、社内すべての部署にわたって丁稚をしているバイトの坂本九馬(坂本九)に頼み、スパイが誰かを内偵させることに。そうこうしているうち、フランスから著名なコスメ研究者・ケン加賀見(谷啓)が帰国する情報を掴んだケイ子社長らは彼の獲得に奔走、ケンはプランタン化粧品を気に入り、自身の長年の研究“液体口紅”をプランタンの研究所で完成させると言う。研究部門に力を入れ、自社でも液体口紅の研究開発をさせていたケイ子は喜んでプレス発表会や生産の手配をした。ところが、チャームガールの弓子(浜美枝)は仲良くなったトレビアン化粧品の宣伝部員・佐谷(佐原健二)から「液体口紅発売には何かくさいものがある」と言われ……


ミュージカル喜劇。明るく楽しい東宝映画を体現する明朗サラリーマンコメディである。登場人物がみなチャーミングで、スクリーンを眺めているだけで幸せ気分。古澤憲吾監督のパカーンとした唐突な歌謡シーンが楽しい。朗らかな笑顔を浮かべる平田昭彦にバカ受け。

┃ 飲む白粉

プランタン化粧品が開発した「ドリンク・ローズ」とトレビアン化粧品の「ホワイトロマン」は、ともに“飲む白粉”。普通の化粧水が入っているような、細長いキャップ付きボトルに入っている。チャームガールたちの宣伝文句を聞いてみると、飲むとお肌が内側から輝くように明るく・バラ色になるんだとか。当時はおそらく「奇抜なありえない商品」として設定されていたのだろうが、現在は実際に美肌効能をうたう美容飲料が化粧品メーカーから発売されている。また、本作で重要な鍵となる「液体口紅」も今日ではグロスやリキッドルージュとして現実化しており、これらはケンが社内訓示の際に「液体口紅は、スティック状の口紅のようにペットリした感触ではなく、つけているのを忘れるような軽いつけ心地」と説明しているまさにそのものの特性を持つ。グロスというのはここ10年くらいで一般化したものだと思っていたが、当時から液状の口紅というのは存在していなのだろうか。

┃ 野菜炒め丼

プランタン化粧品のチャームガール=美容部員の令子(団玲子)、久美(藤山陽子)らが休憩時間に勤務先デパートの食堂で食べているのが野菜炒め丼。……というか、何だろうあれは。白い平皿にカレーライスのようにご飯が盛られ、その上に野菜炒めらしきカラフルなものが乗っていて、彼女らはそれをスプーンですくって食べているのだ。かかっているものが貧相すぎる。ドライカレーには見えないし、中華野菜炒め系にも見えないし……。一番近しいところで、バンバンジーかなすの辛みそ炒めみたいな感じ。何だったのだろう。

┃ 料亭の焼き魚

チャームガール・弓子(浜美枝)の実家は赤坂の高級料亭・さわむら。女将のさわ子(沢村貞子)はケイ子社長の姉でもあり、彼女らはそのコネでプランタン化粧品に入社したらしい。料亭の板前青年は弓子に惚れているらしく、帳場に顔を出して友達を連れてきたからうんとおいしいもの出してね、という弓子にちょっと照れる。そのとき帳場で作られているのが焼き魚。串が刺されてゆるく曲げられたサワラらしき魚にかぼすが添えられたものが何皿か並べられている。

┃ 喫茶店“トップ”のメニュー

プランタン化粧品の本社の近くにあり、社員たちがお昼休みに休憩に来る喫茶店・トップ。本格コーヒーがウリの店だが、誰もコーヒーを注文しないばかりか、いたずらで砂糖の中に塩を投入する不逞の輩あり。気障なマスターは青島幸男。以下はプランタン化粧品社員らが「トップ」で注文するメニューである。

  • マスター(青島幸男)のおすすめ=ジャマイカストレート
  • 波奈宣伝課長(ハナ肇)=やきパンとミルクティー
    • やきパンとは、トーストのこと。トップでは厚切りのやや小ぶりな食パンを数枚出してくれる。ハナはこれに砂糖をいっぱいかけて食べるのが大好きだが、チャームガールたちのいたずらで、砂糖ではなく塩をいっぱいかけたパンを食ってしまうことに……。なお、レモンティーはすっぱいから嫌い。
  • 植木宣伝係長(植木等)=紅茶
    • ハナ課長と一緒に来店。マスターがコーヒーをすすめているのに紅茶を注文。ハナ課長と同じく、紅茶に塩を投入して飲んでしまう。
  • 弓子(浜美枝)、令子(団玲子)、久美(藤山陽子)=アイス×2、ソーダ
    • マスターの意に反した注文をするチャームガールたち。気障ったらしいマスターへのいたずらに、砂糖壷の中に塩を投入してしまう。

┃ 巨大おにぎり

ケン加賀美(谷啓)が出勤時に持参しているお弁当が、巨大おにぎり。日本へ帰国したらいつも食べているらしい。でっかくてまるみのある三角形のおにぎりに白ごまがたっぷり付いており、具はうめぼし。これを竹皮で包んでいる。

┃ コーヒー牛乳とあんぱん

宣伝部の新入カメラマン・藤尾富士男(ジェリー藤尾)は南川常務(平田昭彦)がスパイではないかと疑い、尾行を開始する。その張り込み中に藤尾が車のボンネットをテーブルにして食べているのがコーヒー牛乳とあんぱん。いや、あんぱんのあんは見えなかったので、もしかしたら丸いクリームパンやジャムパンだったかもしれません。

┃ オレンジジュース

藤尾の叔父の知り合いの美容研究家・楠七重(三原葉子)によって、実はいままで皆がケン加賀美だと思っていたものは真っ赤な偽物だと判明。谷啓がフランス帰りのエリートなわけねえと思ったよ! ということで、本物のケン加賀美に会うべく箱根の山中にある別荘へ急行した藤尾&チャームガールズ。この本物のケン加賀美(ビンボ・ダナオ)の研究所でチャームガールたちに出されているのがオレンジジュース。ド派手な蛍光オレンジが毒々しい。

┃ ケーキ

そして洋館ホテルでの“液体口紅”ベニカオルのプレス発表日。偽ケン・谷啓は皆の前で偽物であることを暴露され、お祝いのケーキを顔にぶつけられる。小ぶりだが2段になっている可愛いケーキで、パイ投げのように使われるのがちょっともったいなかった。