大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『四谷怪談 お岩の亡霊』結婚式の盃、お礼の一献、居酒屋で一杯、水飴、湯呑みで飲む酒、血の道の妙薬、まんじゅう

四谷怪談 お岩の亡霊 [DVD]
四谷怪談 お岩の亡霊

遠州相良藩の武士・民谷伊右衛門佐藤慶)は妻・お岩(稲野和子)と共に江戸でしがない貧乏暮らしを送る浪人である。金がないのもさることながら、赤ん坊を産んだ後のお岩の体調が思わしくないことも彼をいらだたせていた。伊右衛門は仕官のクチを作るために寺の祭りで馬鹿チンピラを雇って両替屋伊勢屋の娘・お梅(真砂ちかこ)にイチャモンをつけさせ、それを自分が救うという茶番芝居をして、大名にクチの利く伊勢屋に取り入ろうとした。この作戦は功を奏し、お梅は彼に惚れてしまう。伊勢屋はお梅と結婚してくれるなら、仕官のクチも金もいくらでも世話すると言い、伊右衛門の家にとある薬を届けさせる。産後臥せっているお岩のための妙薬というそれは、実はひとくち飲めば顔が崩れ、ふたくち飲めば……という毒薬だったのである。


四谷怪談佐藤慶主演版。
話自体はオーソドックスで普通に四谷怪談をやっている感じだが(つまりそのぶん話が大変にわかりやすい)、とにもかくにも佐藤慶がどこからどう見てもド悪党で、亡霊となったお岩に追い回されても屁のカッパなことに驚く。こいつ、まったく動じてねえ。最後まで1ミリも動じてねえ。こいつは石井輝男の『地獄』へ墮ちるべきである。なお、お岩さんの描写はかなり力が入っていて、本気で怖いことになっている。

┃ 結婚式の盃

オープニングは伊右衛門とお岩の婚礼の儀。多分お岩の実家の広間で、慎ましやかながら武家らしいきっちりとした式が行われてる。盃に注がれた三三九度の酒を飲み干す伊右衛門
その新しい夫婦を見て、お岩の妹・お袖(御影京子)と恋仲の浪人・与茂七(青山良彦)は、伊右衛門のことをいけすかないとつぶやく。

┃ お礼の一献

天明6年、遠州相良藩田沼意次の失脚により減棒となり、伊右衛門とお岩は江戸へ出て浪人暮らしを強いられることとなる。仕官のクチを掴みたい伊右衛門はセコい芝居を打って日本橋の両替屋・伊勢屋へ恩を着せた。伊勢屋は娘を助けてくれたお礼にと伊右衛門を食事に招待してくる。思い通りにことが運んでシメシメする伊右衛門は羽織を来て伊勢屋へ出かけてゆき、振る舞いを受ける。さすが豪商、伊右衛門の前には豪華なお膳(と言っても中身は映らないが……)が据えられた。
そして伊勢屋は伊右衛門に妻子がいることを承知で、娘と結婚してくれないか、さすれば仕官のクチも金もすべて用意すると言う。

┃ 居酒屋で一杯

伊右衛門は伊勢屋の娘に対する茶番劇をお岩の父(浜村純)に見とがめられ叱責される。ところが伊右衛門は逆にお岩を引き取ってくれと平然と言い放ったばかりか、伊勢屋にお前の悪行暴きたてたるで!と言ってきた浜村純を夜闇にまぎれてさくっと斬殺。おーい。
一方その頃、お岩の実家で下郎をしていた直助(小林昭二)もまたその付近で小間物屋・奥田庄三郎(木村元)を金品略取の目的で殺害していた。この悪党ふたりは意気投合(?)、近くの居酒屋にしけ込んで、とっくり片手に悪巧み、というか、お互いに悪事アイデアを授けあうという関係になる。

┃ 水飴

伊右衛門の家に出入りする悪徳按摩・宅悦(沢村宗之助)は以前よりお岩に気があり、今日は小平(水上保広)という青年を連れて、伊右衛門宅を訪れていた。彼を身体の弱いお岩に代わって家の仕事をする下働きに使ったらどうかと言うのだ。下働きは雇いたいが生活に余裕がないと告げるお岩に、宅悦はお金はこちらで立て替えるからと懐柔する。お岩はたいそう喜び、さっそく小平に赤ん坊に飲ませる水飴を買いに行ってもらう。

┃ 湯呑みで飲む酒

さて、ふたたび居酒屋で悪巧み?の伊右衛門と直助。直助は伊右衛門に、宅悦をそそのかしてお岩と関係させ、それをタテに離縁して伊勢屋の娘と結婚してはどうかと言う。
そんな悪巧みから帰ってきた伊右衛門は、土間で湯呑みに注いだ酒をあおる。この手提げのとっくりに入った酒、前後のつながりからして、さきほどの居酒屋から持って帰ってきたものだろうか。そして、めまいがすると訴えるお岩を邪険に扱うのだった。

┃ 血の道の妙薬

さて、そんな伊右衛門宅にお梅の乳母・お槙(橘公子)がやって来て、先代が唐から手に入れた血の道の妙薬だと言って、「蘇気精」という薬を置いてゆく。お槙によると、産後の体調不良にたいそう利くというふれこみ。それを土間で聞いていた下働きの小平は、寝たきりで足腰の立たない老母のため、薬を少し分けてほしいと伊右衛門にすがりつく。しかし、伊右衛門はそんな彼を邪険にしばく。白く大きな四角い包みに入っているその薬は、実はお岩を殺すための猛毒だったのだ。
そして、伊右衛門は優しいそぶりをしてその薬を湯呑みにあけて湯にとき、お岩に飲ませてしまう。

いやね旦那、飲ませるまでに宅悦を買収したり、小平が老母に薬を飲ませてやるため薬を持ち逃げしたのを捕まえたり、お岩さんを懐柔するため塗り薬(自分がDVで負わせた傷に塗る用)を買ったりと、佐藤慶様の悪どい活躍ぶりは本当すごいってもんですよ。はっきり言って説明シーンの連続なのだが、佐藤慶だから赦す。すべて。てなもんなんですよ。

┃ まんじゅうこわい

色々悪どいけど、伊右衛門が凶悪すぎて悪さが霞む直助にも嫌いなものはある。
まんじゅうとお化けはでぇきれぇなんだよ〜」
だそうである。
まんじゅうこわい