大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『ペン偽らず 暴力の街』闇米、銘仙協会招待の宴会と寸志のお酒、新庁舎落成式、みかんの盛り合わせ

ペン偽らず 暴力の街

時が止まったような街・南條町は銘仙の名産地である。各地で闇織物の摘発が相次ぐ中、この街では闇銘仙が摘発されたことはなかった。警察関係者・報道関係者が招かれたある宴会に出席した正義感の強い東京新報記者・北(原保美)は、その宴席が銘仙協会の招待と知るや否や憤慨し、席を辞してそのことを記事にしてしまう。これに怒った町会議員・大西(三島雅夫)は、検察庁簡易裁判所の新庁舎落成式で北をひっぱたき、配下のやくざ・大西組を使って北と東京新報に圧力をかけようとする。支局長(志村喬)は北の身の安全を考えて他の支局へ一時転属させ、別支局の川崎(池部良)を調査に向かわせる。


裏の顔を持つ権力者とそれに癒着する警察・検察とペンで戦う新聞記者たちを描く……というテーマは大変重厚だと思うのだが、新聞や市民は常に正義であるという観念が今の感覚では辛い。『不知火検校』や『県警対組織暴力』とは対極的というか……。ドキュメンタリー風にしているのでそう簡単にもいかないんだろうけど、言いたいことが前に出過ぎて意見広告みたいになっている印象。いや、そもそもそういう目的のものなのかもしれない。


┃ 闇米

オープニング。ひなびた街の川沿いの道にある小さな交番の前に、検挙された闇米が地面にこぼれているのが映るシーンがある。この街では闇米は検挙されても、闇銘仙が検挙されることはほとんどない。

┃ 銘仙協会招待の宴会と寸志のお酒

警察署長らが招かれた宴席に出席した各紙の新聞記者たち。その宴会があまりにだらしないことに驚く新人記者の北だったが、その宴会が銘仙協会の招待だと知って怒りを隠せない。宴会で出されている料理はよく見えないが、各人の前にお膳を置く形式の料亭での宴会なので、高級料理のはず。闇米が出回っている時代にはあまりに贅沢な席(と言いたかったのかな?)。正直、このシーンは説明的すぎる気がした。
直後、警察署の所長室が映るシーンで、署長のデスクの上に「寸志」というのし紙のかかったお酒が映る。これも銘仙協会からの賄賂のようだ。

┃ 新庁舎落成式

南條町の検察庁簡易裁判所の新庁舎落成式。庁舎(木造の粗末な建物)の前にテーブルを並べ、関係者・報道陣を招いて簡単なパーティー形式で行われている。この新庁舎は大西(三島雅夫)の後押しによって作られたものらしい。戸川検事(滝沢修)による祝辞のあとで乾杯となり、日本酒をついで回る役人。
このとき出されているモノが謎で、出席者各位の前に折り詰め弁当みたいなのしのかかった包み(誰もフタを開けていない。おみやげ?)、テーブル上には柑橘系が盛られたフルーツかご。おつまみとかないのか? 乾杯は形式だけのものなのかしら。

┃ みかんの盛り合わせ

東京新報が拠点にしている旅館・大国屋。
取材から帰ってきた佐々木(永田靖)が湯殿へ行くと、脱衣所ではあだっぽい婦人が着替えをしている最中で、佐々木は驚いて部屋へ引き返してくる。毎日大国屋へもらい湯に来ているこの婦人は大塚という近隣やくざの妾・トキ(平井岐代子)といい、彼女は東京新報の記者たちが詰めている部屋にあいさつにやって来る。彼女は彼らが大西を叩いていることを褒めて、宿のオヤジ(殿山泰司)にみかんをカゴいっぱいに盛り合わせたものを持ってこさせる。
しかし実は彼女も大西の息のかかった人間で、東京新報の様子を探るため彼らの部屋に偵察に来たのだった。