大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『懲役太郎 まむしの兄弟』エスカルゴとシャトーブリアン(ミディアム)とシャリ、おでんとガソリン、いちごのケーキ

懲役太郎 まむしの兄弟 [DVD]
懲役太郎 まむしの兄弟

刑務所から出て来た政(菅原文太)は弟分・勝(川地民夫)の出迎えを受け、久方ぶりに神戸は新開地へ帰ってきた。新開地では新興の七友会系山北組と古参の滝花組が争っており、小競り合いが絶えなかった。政と勝はスットコドッコイであったが金バッジが大嫌いなため、彼らのいずれにも加担しないつもり……だったが、親に捨てられたかわいそうな兄弟、ゆきちゃんとその弟妹と出会ったりなんなりしているうちに山北組のスカウトを受け、お金に目が眩んで滝花組を襲撃。ところが滝花組には立派な代貸・梅田(葉山良二)がいた。

ズッコケちんぴらコメディ……とでも言うべきか、笑って泣ける小粋な映画である。
まず何より菅原文太×川地民夫というカップリングが天才的で、まじめな堅物だけどバカな菅原文太、兄貴思いで兄貴よりものの道理がわかっている勝の軽妙な掛け合いにワクワクさせられる。

┃ 神戸イチの洋食屋のエスカルゴとシャトーブリアン

政の出所祝いに勝が食事へ連れていくのが神戸イチの洋食屋(テレビでじゃんじゃん宣伝しとる)。店内でピアノの生演奏をしているような高級店で、メニューもフランス語で書かれている。もちろんそんなもの読めない勝が(というか実は日本語も読めない)適当に注文したのがエスカルゴ。ボーイに「かたつむりでございます」と言われて、「でんでんむしけ!?」と驚く勝。

 政「オノレの店に人間の食うもんはないのんけ!? 肉や、肉はないのんけ!?」
 ボーイ「肉料理はこちらにございます。シャトーブリアン、テンダ……」
 政「なんでもええっ! ジュージュー焼いて持ってこい!」
 ボーイ「お焼き加減は?」
 政「ええかげんにせいっ!!!」
 ボーイ「では、ミディアムで」(ぺこり)

という日本映画史上最高に下らない会話でもって注文完了、無事ジュージュー焼いたステーキとシャリを、政はナプキンを鉢巻きの如く頭に巻いてモグモグするのであった。洋食屋っぽい鉄板+木の板というステーキ皿がいかす。
ちなみにこのときテーブルに出ているビールはキリン。

┃ おでんとガソリン

花組の噂を聞いて賭場荒らしをしに行くも凄腕の代貸に見事追い払われた政と勝は、いたいけな少女の営むおでん屋台でおでんとともにガソリン注入。
本シリーズにおいて「ガソリン」とは「酒」のことなので覚えておこう。

┃ いちごのケーキ

おでん屋台の少女・ゆきちゃん(山田みどり)が学校にも行かず、幼い弟と妹を養っていることを知った政。
少女の家を訪ねると、少年補導に詳しい婦人警官・佐藤友美が来ていた。佐藤はゆきちゃんに孤児院に入ることを勧めているが、それを聞いた政は激怒。孤児院は人間のクズ作るところや、こんなど汚いもん、子供らに食わせられるけ!と、彼女の手みやげのいちごのケーキを投げ捨ててしまう。
ところがこれを見た子供らが大号泣。大弱りになった政は洋菓子店「リプトン」にいちごのケーキを買いに行くが、気に入ったホールケーキにはいちごが乗っていなかっため、いちごのショートケーキからいちごをつけかえるのであった。泣くほどのバカである。

この洋菓子店「リプトン」はあの紅茶のリプトンだが、京都には洋菓子を扱う実店舗の喫茶店があり、そのいずれかのテイクアウト部門の店頭でロケされたものではと思う。
リプトンは京都で現存する中で最も古い喫茶店だそうで、その歴史は株式会社フクナガのサイトに詳しい。

┃ ウィスキー

本作には他にも食べ物がアクセントとして登場するシーンがある。
刑務所から出て来た政を出迎えた勝だったが、出迎えの車を出せないのでサントリーウィスキーの配送車に相乗りさせてもらう二人。政は勝手にウィスキーを飲むのであった。銘柄はおそらく以下のもの。

┃ みかん、バナナ、りんごのバスケット

政&勝が佐藤友美の家を訪ねた際、応接セットのテーブルの上にりんご・バナナ・みかんの入ったバスケットが置かれている。政はみかんを、勝はバナナを食べる、佐藤はりんごをむきながら彼らにゆきちゃんたちの話をしようとするが、決裂してしまう。このとき勝がバナナをくんくんしているのが可愛い。