大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『影の車』すき焼き、牛肉の味噌漬け、ガザミ、ネズミ饅頭と本物饅頭、おにぎり

影の車 [DVD]
影の車

旅行代理店に勤める平凡なサラリーマン・浜島幸雄(加藤剛)は、帰宅途中のバス車中で故郷・千倉の幼なじみ・吉田泰子(岩下志麻)に再会する。彼女は夫と死別して保険会社の外交員になり、6歳の息子・健一(岡本久人)と慎ましくに暮らしていた。浜島は頻繁に彼女の家を訪ねるようになり、ついに二人は結ばれる。浜島と泰子は結婚の約束まで交わすが、浜島は泰子の息子・健一の冷たい目が気になってくる。というのも、彼自身幼いとき、健一のような目で母の愛人を見つめていたことがあったからだ。


平凡なサラリーマンがちょっとしたことから破滅する話。不穏きわまりない雰囲気にソワソワしつつ、こいつどうやって破滅してくれるのかな〜とワクワクさせられる。

┃ すき焼き、大根の漬け物

そんな浜島が初めて泰子の家を訪ねる際にごちそうになるのがすき焼き。帰宅途中に泰子が肉屋「伊勢松坂牛 肉の田中」で求めた肉(300g)がいかにも母子二人暮らしの小さな鉄鍋で、ぐつぐつ煮えている。
泰子は箸休めに千倉の大根の漬け物を出してくれる。カワドにおいしい大根がありましたでしょう、私のところは母がいなかったものですからお手伝いの和田さんが毎年漬けてくださって。だそうで、どうもこの大根は千倉のぬか床で漬けられたものがおいしいらしい。こっちへ持って帰ってくると気候風土の違いかぬか床が変わってしまい、味が違うようになる、とか(浜島・談)。

┃ 手みやげの牛肉の味噌漬け

浜島は誘われてもいないのに泰子の家へ行くようになる。その際手みやげにしたのが、泰子行きつけの肉屋で買った牛肉の味噌漬け。しかも「得意先からのもらいもの」というすごい言い訳付き。気持ち悪さ全開である。

┃ ガザミ(ワタリガニ

そしてまたも呼ばれてもないのに泰子の家を訪ねる浜島。出されたのはガザミワタリガニ)。それが皿にまるまる乗っかっているさまはホラー。

カニが嫌いで、カニを見ると『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』を思い出してギャーッとなる私にはもう怪奇映画以外の何物でもなかった。

┃ ネズミ饅頭と本物饅頭

泰子の家は畑に囲まれた山肌?のトタン吹きの一軒家なので、ネズミが日夜大運動会を開催している。これを退治するため、泰子・健一・浜島の三人でネズミ饅頭を作る。この饅頭、中の毒入りエサの部分がまわりの白い求肥?から透けて見えて、サイズと言い、ぱっと見、本物の饅頭みたいなのだが……。
後日、浜島が饅頭を手みやげに泰子の家へやって来ると、家には健一しかおらず、泰子の帰りを二人で待つことに。その折、浜島が健一にさっきの饅頭を出してくれと言うと、健一はその饅頭にネズミ饅頭をさりげなく混ぜて出してくるのである。ネズミ饅頭を間違って食ってしまう浜島。無表情なガキの目つきが怖い!!

┃ ドライブのお弁当のおにぎり

ところで、浜島が泰子親子を連れて紅葉の美しい山へドライブに行くシーンがあるのだが、そこで健一がおにぎり2個をもらって駆け出すシーンがある。しかしの直後にカットが変わって健一が川へ何かを2個投げ込むというシーンになるのだが、実際は石を投げ込んでいるとはわかるものの、あまりにカットがナイスタイミングに切り替わるせいでその投げ込んでいるものがおにぎりとしか思えず、不穏な気持ちになる。