大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『西銀座駅前』大正製薬の薬、あんぱん、ビールとハイボール、ハムのサンドイッチと牛乳、トマトジュース、ローストチキンとプリン

西銀座駅

西銀座駅前の薬局の旦那・重太郎(柳沢真一)は女房(山岡久乃)の尻に敷かれて常時タジタジしている小心者である。彼は南国テイストなものを見聞きすると、戦時中に南洋で現地の娘とキャッキャウフフしていた記憶がフラッシュバックする。ある時、女房子供が旅行に出かけることになり、2日間をひとりで過ごすことになるが、悪友の獣医・浅田(西村晃)に「今が浮気のチャンスだ」と唆される。実は重太郎は、向かいの万年筆屋の女店員・ユリ(堀恭子)に憧れていたのだが……


平凡な男の一夜の夢を描く歌謡映画。フランク永井の「西銀座駅前」の歌に乗ってドラえもんスペシャルのような呑気な小冒険が展開する微笑ましい一作。
タイトルバックが電光掲示板風なのがオシャレ。ミュージカル風演出もバタ臭くならない程度で、これは夢の物語ですよというイントロにふさわしい。

┃ 大正製薬の薬

主人公が薬局の旦那ということで、タイアップで大正製薬の薬がやたらしつこく登場。営業マンまでやって来てだめ押し。柳沢真一は時計のアラームが鳴るごとに薬を服用することを奥さんから言いつけられている。
この薬、てっきり健康増進のためのサプリだと思っていたが、飲まないときに南洋幻覚がひどくなるところを見ると、もしかして幻覚や妄想を抑制する薬なのだろうか……?

┃ あんぱん

主人公の親友・西村晃は遊び人の獣医。彼の病院には電話番として書生(小沢昭一)がおり、柳沢真一が電話をかけてきたときに書生がかじっているのがあんぱん

┃ ビール、ハイボール

奥さんの旅行中に柳沢真一を夜遊びに連れて行く西村晃。バーをはしごして飲むのがビールやハイボール西村晃はビールを大ジョッキで飲んでいるのに、柳沢真一は小さいコップで飲んでいるのが泣ける。また、西村晃はひとりで飲みに行く場合はハイボールはダブルで注文するようである。

┃ 朝食の厚切りハムのサンドイッチ、牛乳

酔いつぶれた柳沢真一&西村晃は、ユリに助けられてなんとか小石川の柳沢の自宅へ帰る。翌朝、西村晃は柳沢家の冷蔵庫を勝手に開けてハム(もちろんまるまるのやつ)を切り、食パン(これも厚切り)に挟んでハムサンドを作って牛乳と一緒に朝食にしていた。厚切りハムと厚切り食パンのサンドイッチ……おいしそうである。言うまでもなく牛乳も大ビン。

┃ トマトジュース

とりあえず薬局に出勤した柳沢真一は「奥様のお言いつけ」で女店員にトマトジュースを差し出されるが、それを拒否。危うく奥さんに密告されそうになる。えらいでっかいコップで出されていたが、あんなにトマトジュースいっき飲みできない。
このトマトジュースだが、これはおそらく奥さんの好きな飲み物。最後の湘南のシーンで奥さんがユリに「トマト好き?」と訪ねるシーンがあるため。旅行先にもかかわらず持っているということは、相当好きな証拠。
ちなみにユリはここで「私、だーい好き!」と答えるが、実は柳沢真一といるときには「私トマト嫌いよ!」と言うシーンがある。

┃ ローストチキンとプリン

そんなユリとのデート、学生に「たらふく食わせろ」とアドバイスされた柳沢真一が彼女にたらふく食わせたメニューはローストチキン。まるまるのチキンとその周囲にたっぷり盛りつけられた色とりどりのオードブルがとってもおいしそう。デートでこんなもの注文してくれたら、確かに太っ腹が男だと思ってもらえることだろう。ユリはこれをガツガツ食っていたが、柳沢は何故かボソボソとプリンを食べていた。プッチンプリンのような小さいプリンが皿の上でブルブル震えているさまが泣かせる。