『明治侠客伝 三代目襲名』祭の酒、すいか、桃、かき氷とラムネ、トマト
明治40年、大阪。祭りの賑わいに紛れ、木屋辰一家二代目親分(嵐寛寿郎)が謎の男(汐路章)に刺されて重傷を負う。資材運搬事業を巡って対立している星野(大木実)一味の仕業に違いないと息巻く子息・春夫(津川雅彦)だったが、これを諌めたのが二代目の右腕・菊池浅次郎(鶴田浩二)だった。浅次郎はふてくされて家を出た春夫を探して彼の入り浸っている遊郭へ行くが、そこで初枝(藤純子)という娼妓が父親が危篤であるにも関わらず、星野の腹心である粗暴なヤクザ者・唐沢(安倍徹)に金で足止めされて困っていることを知る。浅次郎は快く財布を投げ、彼女を3日間買い上げて実家へ帰してやった。これを知った唐沢はさらに執拗に木屋辰への嫌がらせを行うが……
丹波哲郎の「きくちくん、えらいっ!!」という台詞が印象的な明治侠客浪漫。
ロマンチックな彩りに満ちた任侠映画で、登場人物も気持ちのよい奴ばかりが揃っている。悪役の大木実や安部徹でさえ、なんかちょっとイイ。タイトルにもなっている「三代目襲名」のくだりには、なるほどと思わされるギミックが施されている。
┃ 祭の酒
本作は盃に酒が注がれるさまを上から捉えたカットから始まる。なんの盃だろう? と思っていると次第にカメラが引いてゆき、太鼓や若衆がフレームに入ってくる。そう、これは祭の神輿を担ぐ若衆に神官から振る舞われる祭の酒なのだ。
そして、この祭で起こった二代目襲撃事件から本作は幕を開ける。祭りの勇ましい喧噪に対してひっそりと行われる暗殺、呼吸が止まるような緊張感とインパクトに満ちた印象的なオープニングだ。
┃ すいか
安部徹率いる唐沢組に、星野建材社長の大木実が来ているシーンでは、子分が振る舞い用のすいかをザクザク切っている。もてなしに季節の果物を出すとは、安部ちゃん一家も粋である。
┃ 桃
浅次郎の配慮で故郷・岡山に帰ることができ、父親の死に目に会えた初枝。大阪へ帰ると車屋に文を届けさせて浅次郎を呼び出し、深く礼を述べる。このとき彼女が浅次郎に渡すのが、実家の庭からもいできたという桃2つ。おいしそうな、瑞々しい、産毛のきれいな桃だった。