大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『骨までしゃぶる』おにぎり、うなぎめし、山盛り卵と卵酒、山盛り飯、「夜食のうどん」、ふかしいも


骨までしゃぶる

明治33年。貧乏ゆえ、洲崎新地の遊郭「松風楼」に売られてきた娘・おきぬ(桜町弘子)は菊奴という源氏名をもらい、遊女となる。彼女の前借は100円ほど、初見世で150円以上稼いだはずだったが、悪辣な主人(三島雅夫)の借財帳管理によって働いても働いても借金が増えるばかり。そんな折、彼女は兄貴分に連れられて遊びにきていた職人・甚五郎(夏八木勲)と出会い、恋に落ちた。おきぬはお姉さん・お貞(久保菜穂子)から、救世軍に助けを求めれば公娼廃止制度によって遊女を辞められると聞かされ、彼女からもらった救世軍のチラシを読みながら、脱出のチャンスを待つ。


なんと気持ちのいい映画だろうか。小娘が強い意志と自分の知恵と努力でもって閉ざされた世界を打ち破り、脱却する。外の世界は必ずしも彼女に幸福をもたらすものではないかもしれないが、それでも愛する人と手を取り合って生きて行けば。加藤泰の愛と勇気と希望の世界が最も美しく析出している作品であると思う。

┃ おにぎり

おきぬの実家へ彼女を買い付けにきた仲買人・汐路章。おきぬら田舎娘たちは馬車に乗せられ、洲崎へ連れてゆかれる。
この車中で汐路章がひとりでおにぎりをムシャムシャしている。女の子たちにはあげていない。

┃ うなぎめし

おきぬは洲崎遊郭の松風楼へ売られる。ここに初めて来た女の子はごちそうが出る、とお石お姉さんに聞かされた通り、おきぬの前にうなぎめしが出される。おかみさんが「早くお食べよ」と勧めるが、おきぬは「くにの父ちゃんも母ちゃんも兄弟も、こんな白い飯を食えない、もうずいぶん食っていない」と涙をこぼし、箸を不器用に持って重箱に入ったうなぎめしをかき込むのだった。

┃ 山盛り卵と卵酒

早速店へ出されたおきぬ。彼女を買った代議士風の旦那の前には、卵が山盛りになったかごが置かれている。その卵を二つばかり入れた卵酒を作るおかみ。代議士風の旦那は卵酒の入った湯呑みをぐいっとあおり、フラフラになりながらも初見世(本当は初見世じゃないけど)に挑むべく精をつけるのであった。この代議士、この時点ですでにズボンを脱いじゃってるのが笑える。

┃ 山盛り飯

松風楼から救世軍へ駆け込んで足抜けした者が出たため、おかみさんは皆の食事時間中にも関わらず、文句を垂れまくっている。
お貞お姉さんたちは借財帳の管理を訝しがっているが、お石姉さんだけは「おかあさんにお任せしてます」と元気に山盛り飯をバクバク、おかわりまでしている。

┃ 「夜食のうどん」

松風楼では一晩に何人も客を取らされるとき、次の客へ交代する合図として小間使いの婆さんが「おきぬさん、夜食のうどんが出来ましたよ」と声をかけてくる。遊女たちはこれを合図に、次の客の待つ部屋へと移動するのである。

┃ ふかしいも

客がなかなか取れなかった上、病気になったお石姉さんは物置部屋へ閉じ込められ、食事抜きにされる。彼女を心配したおきぬは夜半、こっそりふかしいもを持って物置部屋へ行く。喜んでいもを食べるお石と田舎の家族のことを話して心安らぐおきぬだったが、そこにおかみさんが女衒を連れて現れ、お石は外国へ売られてしまうのだった。