大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『怪談 せむし男』鳥の丸焼き、スープ、りんご

怪談 せむし男

会社社長・宗方が狂死した。未亡人・宗方芳江(楠侑子)は弁護士(加藤和夫)から夫が生前購入していたという別荘の存在を知らされる。そもそも夫はその別荘にいるときに発狂したのであった。芳江が別荘を訪ねると、その古びた洋館には不思議なせむし男(西村晃)が下男として働いていた。芳江が彼に夫が狂った時のことを訊ねると、そのときの宗方は寝室で女の遺骸を抱いていたということだった。そこへ、義父であり、また、精神科医として宗方を看取った宗方圭介(加藤武)、助手の山下(江原真二郎)、宗方家の一人・和子(葉山葉子)がやって来る。さる病院の雇われ院長の座におさまっている圭介は、この別荘の権利と芳江を狙っていたのである。

怪奇心霊ホラーだが、この映画が制作・公開されたことのほうが怪奇心霊ホラーのような気がする。
心霊現象より未亡人・楠郁子と心霊精神科医江原真二郎のほうが怖い。

┃ 鳥の丸焼き

宗方が買ったという別荘の洋館には無数のカラスがたかっており、部屋の中まで入ってくるほどだった。芳江も洋館に来てすぐ、カラスに襲撃される。下男の西村晃はそのカラスを捕まえては殺し、屋敷裏の崖下に捨てていた。
そして夕食。芳江・圭介・山下・和子は食堂で西村晃が作ったディナーを食べている。そのメニューは、鳥の丸焼き、ひとり1羽ずつ。鳩くらいの大きさの小さい鳥なのだが、あのー、それって、もしかして頭に「か」がついて、最後に「す」がつく、黒い羽の鳥ですかね???と言いたくなる絶妙なメニューだった。
なお、洋館は旧古河庭園でのロケ。

┃ スープ

客用の食事には鳥の丸焼きを出しているが、西村晃自身の食事は祖末なもので、スープのみ。しかも食事中に加藤武江原真二郎が屋敷内で起こる心霊現象について文句をつけに来るのだった。
このとき西村晃はちゃんとスープ壷とスープ皿を使って食事しているのだが、どうも不相応に思えるそれは一応彼が何者かという伏線でもある、気がする。

┃ りんご

洋館はかつて富永男爵(西村晃/二役)という人物の持ち物だった。富永男爵は白痴の女(桑原幸子)を愛していた。この白痴の女が登場シーンで手に持っているのがりんご。そして彼女の行動がこの洋館をヘルハウス化する要因になるのである。