大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『今年の恋』バナナ・松坂牛のビーフステーキ、コロッケ、ジュースとコーヒー、銀座の小料理屋「愛川」、勉強のおともにお菓子とお茶、バヤリースオレンジ、相川家のみかん、お茶、銀座の喫茶店でクリスマス、海苔茶漬け、山田家のみかん、うなぎ、お寿司、お茶菓子、食堂車でお茶

今年の恋

山田光(田村正和)と相川一郎(石川竜二)は大の仲良し。裕福な会社役員の家の子と銀座の小料理屋の家の子という違いはあれど、ふたりはいつも一緒に遊んだり、勉強したり、クラブ活動も同じボクシング部に入ったり。しかしながらあまりにふたり一緒すぎて成績の悪さもふたり一緒なため、光の兄で大学院生の正(吉田輝雄)や一郎の姉で親の経営する小料理屋で女中勤めをしている美加子(岡田茉莉子)は学校に呼び出される始末。ある日、正は恋人を伴って銀座の小料理屋「愛川」を偵察がてら訪ねるが、美加子の美しさにボエーっとなってしまい、怒った恋人にビールをぶっかけられてしまう。


ロマンチックなラブコメ&ホームドラマ。テンポのよい進行と、かわいくほのぼのとした雰囲気が魅力的。

┃ バナナ・松坂牛のビーフステーキ

学校から帰ってきた光は、夕飯まで待てないらしくダイニングのテーブルでバナナをもぐもぐ。口うるさいばあや(東山千栄子)に夕飯は松坂牛のビーフステーキですよと言われるが、喜ぶわけでもなく、「ステーキばっかだな、焼くだけだから楽なんだろ」と悪態をつく。バナナを妙に器用にむいている田村正和がなんとなく面白い。←悪意はありません。
山田家は裕福らしく、家族でちょっとお茶するにも少しいいティーカップを使っているのが印象的。

┃ コロッケ

一方、ここは相川家。台所では女中・茂子(若水ヤエ子)がコロッケに衣をつけている。美加子はけがをして帰ってきた一郎の手当。救急箱をあけた美加子が赤チンがなくなっていると言うが、それは茂子が足の水虫に塗って使い切ってしまったからであった。

┃ ジュースとコーヒー

光と正がダイニングで話をするシーン。このとき光と正の前には、それぞれジュースとコーヒーが出されている。いくらワルぶって生意気抜かしていても、飲むものはジュースという光がカワイイ。当時の田村正和は相当若く、まだまだキュートな雰囲気を残している。

┃ 銀座の小料理屋「愛川」

正は光の悪友の一郎とはどんな家の子かと、一郎の両親が経営する銀座の小料理屋「愛川」を訪ねる。恋人・道子(峯京子)を伴ってはいるが、実はその恋人というのは本当は恋人ではなく、道子が一方的に正と結婚したがっているという状態である。結婚を迫る彼女と話をつけることと、相川家の偵察を兼ねての訪問である。はじめはサクッと話を終わらせようと一階に席を作ってもらった正だったが、給仕に出てきた美加子があまりに美しかったため(と、道子の追求があまりに激しすぎて周囲に人がいる状態では話ができなくなってきたため)、二階の座敷に席を作ってもらうことに。しかしその席で美加子にデレデレしてしまったため、正は怒った道子に頭からビールをぶっかけられてしまう。
一階では一郎の父である大将(三遊亭円遊)が、おおぶりの海老をさばいている。ちなみに、ここでの正の注文は「ビール」と「何かおいしいもの見繕って」。大学院生とは思えぬスマートな注文。
この店は後に正が美加子に弟たちの話をするために訪問した際、偶然お父さん(野々村潔)と京都の旅館の娘さんのデート現場に居合わせてしまうなど、きっつい修羅場の舞台としてたびたび登場する。


┃ 勉強のおともにお菓子とお茶

光は家に一郎を連れて来て、お菓子とティーセットを傍らにお勉強。かわいい。かわいすぎる。男子高校生がこんなにかわいくていいのか。木下惠介先生のセンス炸裂である。

┃ バヤリースオレンジ

そのときちょうど正が帰ってきたので、ダイニングへあいさつに行く光と正。勉強は疲れちゃったよと言って、バヤリースオレンジのびんをあけてもらい、正と一緒にダイニングテーブルに座って一休み。びんから直接ジュースを飲むのではなく、ちゃんとコップについだのを飲むあたり、やはり金持ちの家の子弟らしい。
正にちゃんと勉強をしていることを話した二人は、ひとくちふたくちジュースを飲んだだけでダイニングを後にする。コップは手に持っていったものの、ジュースがまだ残っているびんはダイニングテーブルの上にそのまま。根が貧乏性にできている私としては、びんも持って行けばいいのにと思った。

┃ 相川家のみかん

一方、ここは相川家の居間。手狭ながら、品のある長火鉢や茶箪笥やらが並んだ居間は商売をやっている家らしいセンスのある粋な空間である。美加子は一郎の勉強問題を巡ってカリカリ中で、一郎の今後を考えてどうのこうのとピーチクパーチク話し続ける。一方、呑気に、そして流れるように軽口を叩き続ける父(そして美加子に叱られる)。おかあさんは長火鉢の上に積んである巨大なみかんを剥いてモシャモシャ。平和この上ない家族会議だ。

┃ お茶

山田家でも光の勉強問題を巡って正と光が話をしている。ふたりの前にはお茶が出されているが、一方的に注意されたと感じた光は話もなかばに席を立ってしまう。カップにはまだお茶が残っており、ばあやが片付けがてらそれを飲み干す。ばあやの庶民的お母さん感限り無し。
確か山田家はこの日も夕食のメニューがビーフステーキだった気がする。

┃ 銀座の喫茶店でクリスマス

クリスマス、街はイルミネーションに彩られ、誰もが浮かれ騒いでいる。しかし光と一郎はせっかく銀座の喫茶店にいるというのに浮かない顔。
昔の映画を観ていると、時期設定がクリスマスで飲食店のシーンがある場合、別に何かのパーティーでもないのにみんながクリスマスパーティー用のとんがり帽子を被っているのが不思議なのだが、当時はあのとんがり帽子はそんなにも市民権を得ていたものなのだろうか。本作のこのシーンでも光と一郎が辛気くさい顔で紙製のクリスマス帽子をかぶっているのが不思議。特にごちそうやケーキを食べているわけでもなく、普通にお茶しているだけなのに……

┃ 海苔茶漬け

深夜に帰宅した美加子は、女中茂子を起こして海苔茶漬けを作ってもらおうとする。起きるのが面倒くさいらしい茂子は「こんな時間に食べたら身体に悪いですよ〜、そこ(長火鉢の上)にあるみかんでも食べたらどうですか〜」と言うが、美加子のごり押しで結局乗り茶漬けの準備をしてくれる。
と言っても、ごはんをよそって、のりを出して、お盆に乗せて持ってきてくれただけだけど。あとは美加子が自分でお茶を入れ、のりを千切ってごはんにかけてお茶漬けを作っていた。

┃ 山田家のみかん

一郎の家に泊まると言って外かた電話してきた光に、今日は帰れと返した正。しかし深夜になっても光は帰らない。一郎の家に電話をかけてみると、光は相川家には泊まっておらず、電話をしたあと一郎とはすぐに別れたというのだ。光の行った先がわからず不安になる正。確かこのシーンで正かばあやかお父さんのいずれかがみかんを食べていたと思う。本作は時間設定が年末のため、季節の果物としてみかんが大活躍である。

┃ うなぎ

翌朝になっても光は帰らず、美加子と一郎は光の家がある横浜へやってくる。そんな中、お父さんの恋人で熱海の旅館へ泊まっていた清子から、光がこっちへ来ているという電話がかかってくる。色々あって正と美加子は正の運転で光のいる熱海へ向かうことに。その車中、はじめは口喧嘩していた二人だったが、だんだん誤解が解けて(?)仲良くなってくる。熱海はもうすぐそこという所に来て、やっぱり熱海へは行かないと言い出す美加子に、せっかくここまで来たんだから何かおいしいものを食べようという正。「小田原のうなぎはちょっとうまいんですよ」と誘うが、美加子は残念そうに「私、うなぎはちょっと……」と言う。しかしその姿もいじらしくてかわいらしい美加子なのであった。

┃ お寿司

正を連れて自宅へ帰ってきた美加子。食事をせずに帰ってきたので、お寿司を取ってと言う。正をやたらめったら歓待しまくり、顔を出したがる父を追い払う美加子のプンプン☆っぷりがかわいい。

┃ 食べないままのお茶菓子

今日は大晦日。熱海に滞在していた光・一郎から、お父さん&清子と共に京都で年越しするという電話がかかってくる。正は彼らを追って京都へ行くとこに。残された美加子は大晦日の営業準備に忙しい「愛川」で「今日は忙しいし〜」とずっとブツブツ言っているが、両親に背中を押され、「正が忘れて行ったライター(お母さんの形見)を届ける」名目で京都へ行くことにする。
急いで自宅へ帰り、茂子に京都旅行の用意をしてもらおうとしたら、台所のテーブルで茂子がふたつのお茶とお茶菓子を前にシクシク泣いていた。来客があったらしいのだ。美加子が訳を聞くと、前々から思いを寄せていた薬屋の青年(赤チンの男)から大切な話があると言われて家へ上げたら、なんと「結婚してください。ぼくのお父さんと」と言われたらしいのだ。よもやの「ぼくのお母さんになってください」求婚(?)。青年は茂子が出したお茶とお茶お菓子に手を付けずに帰ってしまったらしい。

┃ 食堂車でお茶

京都行きの車中、食堂車でお茶する美加子はルンルン気分。窓側をカウンター状のテーブルにしてある食堂車のデラックスぷりがハッピーな気分を盛り上げる、かわいい年末年始映画だった。