大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『惜春鳥』大滝旅館の料理、牧田家の朝食

惜春鳥

東京で学生生活を送っていた岩垣直治(川津祐介)が久しぶりに故郷・会津若松へ帰ってきた。高校時代の友人4人、バー「サロンX」の息子・牧田康正(津川雅彦)、地元工場で赤旗を振る手代木浩三(石浜朗)、大滝旅館の息子で板前見習いをしている峯村卓也(小坂一也)、足が不自由なため勤めに出ず家業の会津塗りの職人見習となった馬杉彰(山本豊三)は彼を歓迎して大滝旅館に集まる。時を同じくして、芸者・みどり(有馬稲子)と駆け落ちして会津から消えた牧田の叔父・英太郎(佐田啓二)が肺病を煩って帰ってきた。牧田は旧友と叔父が帰ってきたことを喜ぶが、その裏で岩垣は馬杉や峯村から多額の金を借りようとしていた。やがて岩垣がなぜ故郷に帰ってきたのかが露見することで、彼らの友情にヒビが入ってゆくが……

5人の友人同士の友情とその亀裂を描く青春もの。
あまりにキラキラした少年(いまは青年)たちの無垢で麗しい友情の姿に感涙。たとえ友人に裏切られ、また逆に友人を裏切ることになり、あるいはそれを傍らから見つめるしかなくとも、彼らの友情は永遠であることが感じられ、涙がこぼれる。5人がそれぞれ違う思いを抱いてはいるが、それはお互いへの友情ゆえのことだということが胸が締め付ける。透明感あふれる叙情に満ちた佳作。


┃ 大滝旅館の料理

岩垣の帰省に喜ぶ友人一同。泊まるところのない彼のため、旅館の息子である峯村がいい部屋をあてがってくれた上に、板前見習いをしている料理の腕を振るってくれる(彼の手料理かどうかは厳密には謎)。広間には豪華な料理が並べられ、たくさんのビールの栓が抜かれた。きれいどころの芸者・みどりが呼ばれ、彼女は得意の「白虎隊」の舞を披露する。このシーン、会計上は、宿代とビールは峯村持ち、料理は会社員の手代木持ちという設定だったと思う。
本編中では峯村が料理をしているシーンが何度か入るほか、牧田も実家が経営しているバーでバーテンをしている設定のため、たびたび彼がシェーカーを振っているカットが挿入される。

┃ 牧田家の朝食

牧田家では突然帰ってきた英太郎が邪険に扱われていた。肺病を嫌って離れで寝起きさせられ、食事も家族と一緒にはとれないようにされていた。叔父のことが好きな牧田はそんな英太郎のもとをたびたび訪ね、色々と話をしたり、食事を届けたりしている。
きょうの朝食も英太郎は離れでとらされていたが、母屋の茶の間では牧田とその母が向かい合って朝食をとっていた。メニューはごはんとみそ汁。母は牧田が英太郎と仲良くすることが気に食わないらしく、文句をだらだらと言い続けている。牧田はそれに抗議するような態度で、ごはんの入った電気釜(やたら巨大)を自分のほうへ引き寄せて、自分でごはんをよそった。母はなおも文句を言い続けながらご飯茶碗に卵を割り入れ、卵ご飯にして朝食をすすりこんだ。