大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『闘牛に賭ける男』婚約披露宴、スペインバル「MATADOR」、ガルシア氏のカフェ、ウィルソン氏のレセプション、TV局の食堂で50円のカレーライス、新グレラン、劇団の「愛の砂漠」成功祝い打ち上げ、TVを観ながら家族団欒のスイカ、企画成功祝いの打ち上げ、「HOTEL FENIX」の屋外レストラン、クリスマスイブの「MATADOR」

闘牛に賭ける男

新聞社の事業部に勤める北見徹(石原裕次郎)はスペイン闘牛招聘の企画を立てていたが、折悪くスペイン風邪が世界的に流行し、政府から渡航中止命令が出た闘牛団は来日ができなくなる。それでも北見は招聘に異様な執着を見せたため、会津若松支局への転属を命じられた。一方、劇団女優・冴子(北原三枝)はエリート銀行員・江藤(二谷英明)と婚約することになっていたが、いままで情熱的になったことのない彼女は親同士が進めたその縁談に乗り気でなかった。そしてその夜、スペインバル「MATADOR」で北見と冴子は出会った。「MATADOR」ではスペインで妻を殺し狂気に陥った画家(芦田伸介)が、闘牛士が牛に突き殺される場面を描いたスケッチを売って酒を飲もうとしていた。その絵にまるで血のように赤いケチャップがかかった瞬間、彼らの運命は動き出す。


海外ロケがウリの観光アイドル映画かと思いきや、異常なまでに視野狭窄な人々がすさまじい自己主張とありえないレベルのわがままを大声で喚き立てあいローロッパを飛び回るという狂った作品だった。美術の木村威夫のエキセントリックな世界観と異様なほど明るく情熱的なスペインの情景がマッチしすぎて、ヴィジュアル的にも完全に狂っていた。北原三枝が完全におかしい女なのもすごいけど、石原裕次郎はそれに輪をかけた狂人役。主演が石原裕次郎の意味、全然ない……。むしろ、裕次郎主演作を敬遠している人に観てほしい怪作。舛田利雄、芸風広すぎ……。


┃ 婚約披露宴

冴子と銀行員・江藤との婚約披露宴は、ホテルの宴会場のような豪奢な広間での立食パーティー形式。と言っても披露宴に比べたら簡易なものらしく、あまり料理は置かれていなかった。出されているのはカクテル(三角グラス入り)、大皿に盛られた肉料理など。

┃ スペインバル「MATADOR」

江藤や北原の行きつけの店。石造りの地下倉庫風で天井が低く、アーチや柱で空間が区切られ、木の床には高低差がつけられている店内が白熱灯(ろうそくや暖炉の光?)の橙色の光に照らされている不思議な店。ホールでは気のいい民族衣装姿の歌手がマンドリン(フラメンコギターだったかも)を奏でている。
婚約披露宴を抜け出した江藤と北原はこの店でレモンサワー?とウィスキー?を頼み、ジャーマンポテトのようなものを食べている。料理が何なのかはハッキリ写らないんだけど、傍らに3つ小さな木のボウルがあって、そのうち1つの中身はケチャップ。料理につけるためのディップのようだ。江藤と北原がスペイン民謡を歌う歌手を見ながら話をしていると、彼らのテーブルにみずぼらしい身なりの画家が現れ、闘牛の絵と引き換えに酒を一杯恵んでくれるように懇願される。その画家がテーブルにぶつかった拍子にボウルのひとつの中身(ケチャップ)が絵にかかり、闘牛士が牛に突き殺されるさまを描いた絵は、まるでそこから血が吹き出たように赤く染まる。この画家はスペインで妻を絞め殺して以来頭がおかしくなり、闘牛士が牛に突き殺される瞬間の絵ばかりをスケッチブックに木炭で素描しているらしい。以降この画家はたびたび登場し、彼の絵には何度か本物の血がかかることになる。

┃ ガルシア氏のカフェ

本作は時間軸が過去と現在を何度も行き来する複雑な構成になっているのだが、上記の2項目は過去の回想in日本。この「ガルシア氏のカフェ」は時間軸が現在に戻って、場所はスペイン。
闘牛を実現すべく現地プロモーター・ガルシア氏を追ってスペインに現れた北見。ガルシア氏は過去の興行中止から日本側に不信感があり、北見を避けて街を動き回っているが、北見がジプジー部落の舞踊の雑踏に紛れてパスポートをすられたことを知り、どこからともなくそのパスポートを奪取して、自分の経営するカフェに来るよう北見へ伝える。
ガルシア氏のカフェは、中東の宮殿の中庭のような不思議な内装の店。窓などのない完全に外と遮断された空間で、壁は青と白のタイル作り、天井は見切れるほど高く、柱や入り口のアーチが緑で飾られていて、白く塗られた鉄でできた華奢なデザインのテーブルと椅子が置かれている。イメージとしては、アルハンブラ宮殿の中庭をブルー〜グリーン系の極彩色にして、ビアガーデンとか歌謡ショーの舞台みたいなテイストを加えたような……。
そんな店で、北見は江藤がワインを飲んでいるところに偶然居合わせる。


┃ ウィルソン氏のレセプション

そしてシーンはまた過去へ。新聞社を退職した北見は友人・山川(高原駿雄)と海外のTV映画を買い付けるという事業を始めた。北見が目を付けたのがアメリカのTV王・ウィルソン氏が持つ旧作フィルム。北見はウィルソン氏の歓迎レセプションに強引に入り込み、直談判しようとするが、ぽっと出で資金もさほどない北見ははじめウィルソン氏に無視される。しかし居合わせた江藤が助け舟を出してくれたことで、無事仮契約が成立。
冴子は会場の片隅のカウンターでグラスを傾けながらその様子を見ているのだった。

┃ TV局の食堂で50円のカレーライス

北見のTV映画の販売事業は大当たりし、大手TV局との大口契約にも成功。北見と山川は出演者や局員でごった返すTV局の食堂で「50円のカレーライスばっか食ってがんばって来たな〜(大意)」と話しながら、楽しそうにカレーライス(50円の)を食べる。このカレーライス、超山盛りで盛りつけがすんごく適当でグチャグチャというところが良い。

┃ 新グレラン

「頭が痛くなってきたよ〜っ」と冗談を飛ばす山川に、北見が颯爽と「新グレラン、頭痛と歯痛によく利くよ!」と新グレラン(薬)を渡すというシーンがあった。ここで新グレランのパッケージが「ねーだろ」というレベルで超大写しになるのがさすが日活。武田製薬がスポンサーなんですね。そのインパクトがすごすぎて、なんで高原駿雄が頭が痛いとか言い出したのか忘れた。

┃ 劇団の「愛の砂漠」成功祝い打ち上げ

冴子は江藤と結婚するため、「愛の砂漠」を最後に劇団を引退する予定だった。最終公演直前に北見と再会した冴子の芝居は情熱的なものとなり、舞台は大喝采を浴びた。その打ち上げが「MATADOR」で行われている。皆でビールを飲んでいたところに北見が現れ、冴子に「引退することはない、劇団の皆と自分が買い付けた海外TV映画に日本語吹替をつけるのを手伝ってくれ」と言う。それを聞いていた江藤は怒って反対するが、冴子はその仕事をやりたいと江藤に告げた。江藤は持っていたグラスを握り割ってしまい、狂気の画家が描いたマタドールの絵に血が落ちる。(確かここでもそういうシーンがあったような気がする……絵にかかったかどうかは確信が持てないが、グラスを割ったのは間違いない)

┃ TVを観ながら家族団欒のスイカ

これはイメージカット。居間に置かれたTVで北見が販売した吹替ドラマを見ている大家族の図、というカット。夏の晩という設定らしく、老若男女みんながイカをかじりながらTVに夢中になっている。

┃ 企画成功祝いの打ち上げ

海外の旧作TV映画を買い付け→冴子の劇団俳優を使って日本語吹替をしたものを販売するという事業は超大当たり。北見は事務所でそのお祝い打ち上げをする。たくさんのビールとちょとしたスナックをデスクの上に並べただけのものだが、北見はここでTVドラマの自社制作構想をみんなに発表。盛り上がる一同だっが、冴子だけは「自分にとって北見はすべてであるのに、北見にとっては冴子がすべてではなく、常に仕事のことを考えている」ことに気付き、浮かない表情だった。

┃ 「HOTEL FENIX」の屋外レストラン

時間はまた現在へ。ガルシア氏を追いかけてマドリッド(確か)までやってきた北見は、夫人と娘の計らいで、ガルシア氏と同席して「HOTEL FENIX」の屋外レストランで食事をする。レストランは海に面したホテルの2F屋上部分を使ったリゾート風のつくり。透明なガラスの大きなボウルに色とりどりのフルーツ(野菜かも?)が入ったフルーツポンチのようなものがテーブルに乗っており、ガルシア氏はグレープフルーツジュース、北見はトマトジュースのようなものを飲んでいる。

┃ クリスマスイブの「MATADOR」

大手テレビ制作会社(代理店?)「東通」の妨害により、北見の事業は失敗。クリスマスイブの夜、丸の内のオフィスを引き払うことになる。山川は無事もとの職場へ復帰できるようになったが、北見は行く先がない。クリスマスイブに浮かれ騒ぐ人々を尻目に、「MATADOR」で酔いつぶれる北見。シンガーが心配して声をかけるが、返事もしない。彼が握り割ったグラスから飛び散った血で、またもあの画家が描いた闘牛の絵に血がかかる。