大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『帝銀事件 死刑囚』「赤痢の予防薬」、酒、コーヒー、菓子・もち・お茶・酒、アイスコーヒー・りんご、泊まり込み先旅館の朝食、すいか、かき氷、ウィスキー、酒とつまみ、うどん、お茶、サントリーの角瓶

帝銀事件 死刑囚 [DVD]
帝銀事件 死刑囚

昭和23年1月26日の15時すぎ、豊島区の帝国銀行椎名町支店に現れた厚生技官を名乗る男。その男が銀行員たちに「赤痢の予防薬」と称して飲ませた薬は青酸系の毒物だった。これにより行員12名が死亡し4名が重症、犯人はその混乱に乗じて現金・証券類18万円を奪い逃走。これが「帝銀事件」である。昭和新報記者・大野木(鈴木瑞穂)、笠原(庄司永建)、武井(内藤武敏)らはさっそく取材に走るが、あまりに的確すぎる手口や民間では手に入りにくい毒物を使っていることから、大野木らは犯人は軍関係者……戦時中満州で生体実験を行っていたという731部隊と何らかの関係があるのではないかと疑いはじめる。ところが小樽で平沢貞通(信欣三)という画家が容疑者として逮捕されたという情報が入り……


帝銀事件をモチーフとした社会派映画。事件記者たちの動きが中心となっているので事件のあらましが取材がてら詳細に説明され、内容を理解しやすい。信欣三は熱演すぎて本当に錯乱した人に見える。
登場する食べ物で季節の変遷がわかるようになっているのがポイント。


┃ 「赤痢の予防薬」

帝国銀行椎名町支店に現れた厚生技官・杉浦豊を名乗る男が行員らに赤痢の予防薬」と称して飲ませた毒物。透明の液体の中に白い沈殿がある第1薬とその1分後に飲む第2薬に別れていた。犯人は第1薬は歯の琺瑯質を痛めるため舌を突き出して飲むようにと指示し、実際にやってみせ、行員全員分をピペットで湯呑みに取り分けた。行員たちは訝しんだが男の指示に従ってその薬を飲んでしまう。
男は無事だったのに行員たちが被害にあったトリックは、使用された毒物は油と混ぜると比重の違いで下に沈み、無害な油は浮いてくるので、犯人がパフォーマンスで飲むときは油の部分を飲めばいいというもの。
後々、この毒物が民間では手に入らない青酸化合物であること、致死量ギリギリの分量であったこと、第1薬は遅効性であり、その毒が効き始めるまでその場にとどめさせる目的で第2薬の服用を命じていたこと(なので第2薬そのものに意味があるわけではない。実際には水だったという設定だったかな)、その第1薬は戦時中陸軍が研究していた毒薬(=集団自決用の毒薬。即効性だと最初に飲んだ人の苦しみようを見てしまったら後で飲む人が怯えて飲めなくなるため、効いてくるまでに数分かかるという遅効性だった)と関連がある可能性が存在することなどが発覚し、毒物の取り扱いに詳細な知識がある者が犯人ではないかという疑いが濃厚になる。

┃ 酒

事件の急報を受け、警察署内の記者クラブに昭和新報の記者たちが集結。デスク・大野木(鈴木瑞穂)、武井(内藤武敏)、阿川(井上昭文)らは湯呑みでを飲みながら取材方針について打ち合わせをする。

┃ コーヒー

しばらくして、事件の生存者・正枝(笹森礼子)が退院。武井と阿川は喫茶店で彼女から詳しい話を聞き出そうとする。わりと広めな昭和の純喫茶、テーブルの上にはコーヒー

┃ 菓子・もち・お茶・酒

警察の捜査会議に密偵を忍び込ませた昭和新報、隣の刑事に「鉛筆を貸してくれ」と言われて貸した鉛筆が昭和新報の名入りだったため、見つかって大騒ぎになる。一方残りのメンバーは泊まり込み先の旅館で宴会(?)をしている。お膳の上にはかりんとうのような菓子・もち・お茶・酒など。

┃ アイスコーヒー・りんご

犯人と思われる人物の写真を生き残りの被害者に見せているときに出されているもの。アイスコーヒー、切ったりんご。このあたりちょっとうろ覚え。

┃ 泊まり込み先旅館の朝食

昭和新報泊まり込み先旅館の朝食。お膳の上にご飯を盛った茶碗がたくさん乱雑に並んでいて、おかずが所々に置いてある。あらかじめ全員分盛ってあって、準備が出来た人から適当に席について食べるというシステムの模様。メニューはご飯、小鉢っぽいもの、魚らしきもの。小鉢と魚の数、絶対足りてない。適当につつきあうのか。


┃ すいか

小樽で平沢貞通(信欣三)という画家が逮捕され、東京に護送されてくるという情報が入る。記者たちは東京にある平沢の自宅に急行。妻と娘は平沢がそんなことをする心当たりはないという。女中が細かく切ったすいかのようなものを出してくれる。

┃ かき氷

生き残り被害者の首実検では、平沢が犯人である可能性がどうも低いようだった。昭和新報はこれとは別途に731部隊の生き残りを当たっていた。毒物の内容や取り扱い状況からして、戦時中に毒物を研究していた陸軍関係者……731部隊関連の人物でないかと推測したためだ。後者のほうが疑いが濃いという判断から、昭和新報編集室は今後の記事の方針立てで大もめしていた。季節はもう盛夏(8月下旬)になっていた。記者が冷たいものを欲しがって、デスクの机の上にあったかき氷をパクパク食べている。

┃ ウィスキー

デスク・大野木はGHQに呼び出され、731部隊を探るのはやめるように圧力をかけられる。米軍将校についてきた通訳が意気込む大野木を懐柔しようと、ウィスキーをすすめてくる。

┃ 酒とつまみ

当初は一切の取材を拒否していた731部隊の生き残り将校(佐野浅夫)が昭和新報の意図を理解してくれ、重要な情報を提供してくれたにも関わらず、報道ができない状況に追い込まれた昭和新報。酒とつまみをお膳の上に出して今後の方針について話し合っているが、記者間で意見が割れ、取っ組み合いの大げんかに発展。つまみが吹き飛ぶ。

┃ うどん

またもや昭和新報の編集会議、今度は旅館ではなく、記者クラブ内か本社社内。うどんをすすりながら話を聞いている記者がいる。

┃ お茶

平沢が自白したとの情報にざわめく昭和新報。しかし、平沢の自供は事件の実際のあらましとはほど遠いものだった。面会に来た義弟に、平沢はを一杯すすって「もう一度お前に会いたかったから嘘の自供をした」と答える。

┃ サントリーの角瓶

裁判では平沢は有罪、死刑の判決が出る。平沢側は高裁に控訴するもここでも死刑判決、さらに最高裁に上告したが棄却され、死刑が確定する。事件発生から7年半の歳月が経過していた。
昭和新報の記者たちは取材が一段落したということで簡単な打ち上げをするが、乗り気な者は誰もいない。記者の誰もが、昭和新報が陸軍関係者の取材を続け報道していたなら世論が変わり、判決も変わったかもしれないと感じていたからだ。
この事件により、平沢の家族は世間から文字通り石を投げつけられ隠遁生活を余儀なくされたばかりか、彼の娘は世間の目を逃れるためアメリカへ長期渡航することになる。本作が公開された時点では平沢は存命だったが、その後刑の執行を待たずして獄死した。
打ち上げのシーンでは、記者のひとりがサントリーの角瓶のラベルをはがしたやつを持っている。ラベルがはがされている理由は不明。