大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『あばよダチ公』ラーメンと五目あんかけご飯、かき氷、スイカ、ウィスキー、ジュースと梨、日本酒とカップヌードルと缶詰、ヤギ肉ジンギスカン、具なしみそ汁、一万円札

あばよダチ公 [DVD]
あばよダチ公

モーさんこと夏木猛夫(松田優作)は強盗と殺人未遂の罪で中野刑務所に収監されていたが、今日晴れて出所。浦安の実家に帰ったが母(初井言榮)と姉(悠木千帆)が冷たかったので、昔の遊び仲間で釣り好きの梅(佐藤蛾次郎)、パチプロの竜(大門正明)、ゴミ収集車の運転手・雅(河原崎建三)を誘ってパーッと遊びに行くことに。ぼったくりバーで大暴れして警察のご厄介になり、さらには警察署でもぼったくりバーの黒服がドン引きするほど大暴れする元気っぷり。そんなこんなで4人は竜のアパートでうだうだしていたが、そこに竜の幼なじみ、シンコ(加藤小夜子)がやって来る。聞けば故郷の村がダムに沈むことが決まるも、強欲な親父(山本麟一)が立ち退きの保証金をつり上げようと掘建て小屋に立てこもっているという。そこで4人は一計を案じる。モーさんとシンコが結婚して、親父の立ち退き金をせしめようと言うのだ。


青春映画。男子4人の馬鹿っぷり仲良しっぷりが眩しく、あまりに楽しそうなその根無し草ライフがうらやましい。山の中の広い河川敷に建てられた掘建て小屋で過ごす一夏、晴れ渡った青空と照りつける陽光が夏休み感満点。
梅の大漁旗で作ったハッピや竜の赤いブリーフ(あんなおしゃれな男子パンツが当時存在していたのか)、なぜかハイブランドみたいなしゃれたテキスタイルで作られた村人の野良着など、衣装も面白い。特に郷治がすごかったので、彼については後述する。

┃ ラーメンとあんかけご飯、かき氷(すい)

本作はモーさんが出所してきたところから始まり、タイトルバックでは「ムショ出たらやってみたかったんだよねーっ!」というシャバライフを満喫するモーさんの姿が流れる。
そこでモーさんがまず食べたのがラーメンと五目あんかけご飯。ラーメンとチャーハンじゃないところがポイントか。普通の小汚い食堂風中華屋で食っているだけなんだけど、この五目あんかけご飯が妙においしそうだった。
次はかき氷。シロップが色付きではなかったので、多分「すい」である。駄菓子屋(?)の店頭でモシャモシャ食う。ムショ出たらまず甘いもんが食いたいって、ノガミの秀(むこうぶち)もかき氷モッシャモッシャしてた。

┃ すいか

モーさんが実家へ帰ったとき、ちゃぶ台の上に出ているのがすいか。まるまる1個分を切ってそのまんま置いてある感じだったんだけど、老母+姉(+赤ん坊)だけであんなに食う気だったのか。母親に冷たくあしらわれたモーさんは勝手にスイカを食うのであった。

┃ 結婚式の盃はウィスキーで

保証金横取りのため、モーさんとシンコを結婚させることにした竜。役所に届は出さないけれど、一応結婚式はということで、ありあわせのウィスキーとヒビ入り茶碗で三三九度。「♪高砂や〜高砂や〜」と祝いの歌まで歌ってくれる愉快な仲間たちであるが、深夜に大騒ぎしたので隣の人が怒鳴り込んできたよ。怒鳴り返したけど。
ワーグナーの「婚礼の合唱」を「♪高砂や〜高砂や〜」にするこの替え歌、昔の映画でたまに聞く。定番なのだろうか。

┃ パクったジュースと梨

そしてシンコの田舎へ行く道中、道路で並走していた清涼飲料水を運送中のトラックからジュースを少々失敬。さらには果物の販売所の前を通ったときにはのかごを少々失敬。さらには日本酒やらカップヌードルやら缶詰を手みやげ(というか備蓄食料用)に、シンコの親父が作った立てこもり用掘建て小屋に上がり込んだ4人なのであった。

┃ ヤギ肉ジンギスカン

シンコの親父を追い出して掘建て小屋に住み着いた4人とシンコ。梅がどこからともなくヤギを連れて来た。毎夜モーさんとシンコの夫婦生活をカーテン代わりの毛布一枚隔てただけの環境で聞かされて辛抱たまらなくなり、この際アニマルでも良しとして近隣からかっぱらって来たらしい。
そしてこのヤギはコトをいたした後、ヤギ肉ジンギスカンにされてメンバーの腹の中におさまったのだった。焼いている途中、まったく空気を読めない梅が「この辺がアソコの肉かな〜〜ニンゲンのアソコの肉は食えるのカナ〜〜」などとブツブツ言ったため座が微妙な空気となり、梅はシンコに振りまくった缶ビールのシャワーを浴びせられた。
ちなみに、「ヤギのアソコの肉」は汚いから捨てたそうです。確かモーさん・談。

┃ 具なしみそ汁

いよいよ備蓄食料もなくなってきた。今朝の朝食は具なしみそ汁である。馬鹿な梅はみそ汁の水面に映った自分の目を具と勘違いしていた。泣ける。
お米がなくなったけど彼らを迷惑がる近隣住民は食料を売ってくれないし、警戒が厳しくてヤギももう盗めない。後でモーさんとシンコが少し遠くまで買い出しに行くことに。

┃ 一万円札

本作一番のインパクトがある食べ物は「一万円札」だろう。
何故そうなったかと言うと、4人が邪魔になった公団課長がヤ印土建屋・半田建設に彼らを追い出してほしいと依頼したのだ。ちなみに、半田建設社長は郷治。紺色の細身スーツ(裏地は赤)にサックスブルーのワイシャツ、レモンイエローの極太ネクタイをしめてブラウンのグラサンをかけているという衣装で登場。いや、郷治自身はカッコいいのだが、とてもじゃないけど土建屋ヤクザには見えないんですが……。そんな郷治に梅を誘拐され、掘建て小屋を出て行くことになった4人。しかし「太く短く生きるかー!」とノリで半田建設に突撃、金庫の中に入っていた大金をせしめる。警察に包囲されて郷治と幹部を人質に立てこもりを決行するも、発煙筒&鉄分銅攻撃を受けて大ピンチ。
このときモーさんが思いついたのが「ヤギになり、強奪した一万円を食べること」。4人がお札を丸めてモショモショ食べるさまが延々映し出され(500円札を食べてモーさんに怒られる梅がいかす)、映画のやけっぱち感は最高潮に達した。