『実録 私設銀座警察』闇市の雑炊・すいとん・焼きとうもろこし・卵・梅干しおにぎり、カストリ酒、ゴミ箱の中のパン、ビール、賭場の寿司、ラーメン、ウエディングケーキと赤飯、メロンソーダ
実録 私設銀座警察
- 1973年/東映東京/カラー/94分
- 監督=佐藤純彌
- 出演=安藤昇、梅宮辰夫、葉山良二、室田日出男、渡瀬恒彦、日尾孝司、北川恵一、花岡達、小林稔侍、中田博久、佐藤晟也、佐藤蛾次郎、宮地健吾、団厳、田口計
終戦間もなくの新橋。復員兵・池谷(安藤昇)、樋口(梅宮辰夫)、宇佐美(葉山良二)、岩下(室田日出男)は混沌の闇市で出会い、意気投合して愚連隊を結成する。数年後、組織は強大に膨れ上がって銀座を仕切るようになり、彼らは「銀座警察」と呼ばれた。彼らの根城とするバーの片隅で不自然に震えている男、渡会菊夫(渡瀬恒彦)。彼は、復員してきたら女房が黒人兵と寝るパンパンになっていたばかりか黒人兵の赤ん坊まで産んでいたことを知り、逆上して女房と赤ん坊を惨殺した。そして宇佐美に拾われ、ポン中殺人鬼へと仕立て上げられたのだが、この彼らの破滅的な行く末とは……
暗黒バイオレンス映画。実録を冠する東映作品の中でも最も描写が過激な部類だろう。過激というか、暴力描写や性描写に何の関心も抱かずに撮ってそうなところが怖い。演出に起伏がなく超フラットな構成で、延々バイオレンスシーンが続いている状態。その暗黒感には凄まじいものがある。
最後に渡瀬恒彦がありえないくらい血を吐くシーンがあるが、あれは「血を吐きたい!」と自ら望んで演じたシーンらしい。撮影前日は断食、撮影に入る直前にビン入り血のり2本と水をたらふく飲み、腹に触るなどちょっとでも刺激があればすぐ吐ける状態にして本番に臨んだそうだ。*1
┃ 闇市の雑炊・すいとん・焼きとうもろこし、卵、梅干しおにぎり
新橋には闇市が立ち、食べ物を売る露店の屋台がひしめいている。雑炊・すいとん・焼きとうもろこし・かごに盛られた卵・梅干しおにぎり。鍋から上がる湯気、ざるに盛られた食べ物たち。腹をすかせた復員兵たちがそれにがっつき、傷痍軍人が路傍でバイオリンを弾き、パンパンたちが客を誘い、米軍兵は彼女らの肩を抱いて歩いている。人力車は彼らに“ベッド”を貸す営業中。道路は彼らでごった返し、まさに混沌。臨場感のあるすごいシーン。
┃ カストリ酒
バラックの飲み屋に入り酒を注文すると「カストリでいいかい?」と聞かれる。室田日出男(確か)が首をかしげていると、復員してきたばかりだから知らないかもしれないけど今うちにはカストリしかないからね、と言って大将が小さなコップにカストリ酒をなみなみと注いでくれる。しかし室田日出男はその味に驚いて吹き出してしまうのだった。
┃ ゴミ箱の中のパン
女房と赤ん坊を殺し、茫然自失となってバラック街をさまよう渡瀬恒彦。道端のゴミ箱を漁り、入っていたパンを両手に抱えてかじる(直前、渡瀬恒彦の手前にパンを食べながら歩いている人が映る)。直後に渡瀬恒彦にパンパンがぶつかってきて、彼女の服にパンの何かがついて揉め事発生。渡瀬恒彦が米軍兵を襲撃して大騒ぎになる。
┃ 銀座のカフェーで飲むビール
いわゆる銀座警察が誕生して数年後、カストリ酒で宴会をしていた彼らも銀座のカフェーでビールで乾杯できるほど裕福になる。これは街も同時に豊かになっていったということだろう。
┃ 賭場で振る舞われる寿司
また、さらに時が経つと、彼らの開帳する賭場では寿司が出されている。世間は空前の食料難で、上野駅でも1日6人の餓死者が出た時代だと言うが、金さえあれば何でも手に入ったのもまたこの時代だった。
┃ 出前らしきラーメン
彼らが根城にしているバー「KITTY」でホステスの女たちと渡瀬恒彦がすすっているのがラーメン。ポン中でプルプルしている渡瀬恒彦は麺を一本ずつ食べていて、ポン中感はんぱない。そのラーメンの麺がまたハリガネ(極細のやつ)なのが泣ける。
┃ ウェディングケーキと赤飯
株式会社を設立した安藤昇は、舎弟、いや社員の小林稔侍の誕生日には立派な革靴を買い与え(もちろんサイズも調査済みでピッタリ)、お茶汲みの女の子が彼の子を妊娠していると知ると資金援助をして二人を結婚させる。
この結婚式で超立派なウエディングケーキが登場。
この時代からウエディングケーキなんかあったのかよ! と思ったが、日本に入ってきたのは明治時代で、メジャー化したのは昭和60年代頃の模様。いずれにせよ終戦直後にこんなケーキで式を挙げるのは相当モダン。しかしこれは援助者の安藤昇が暴力団の弾圧を予見し、株式会社を設立して、きちんとしたスーツでまっとうな商売をやっている先見性のある人物という設定と整合性がある。
そして梅宮辰夫はこの席で箱詰めの赤飯をバックバック食っているのだった。
┃ 喫茶店のメロンソーダ
わりと最後のほう、やくざたち(誰だったかうろ覚え)が喫茶店で「銃弾を撃ち込みまくって土に埋めたはずの渡瀬恒彦が土の中からはい出てきた」という話をしている最中に飲んでいるのがメロンソーダ。ただの色つきのソーダ水かもしれない。