大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『金環蝕』めしつぶ、アイスコーヒー、料亭の食事・手みやげ、健康ランドのビール、ゴルフ場のクラブハウスの軽食、アイスコーヒー

金環蝕 [DVD]
金環蝕

与党・民政党総裁寺田政臣(久米明)は、就任に先立つ総裁選挙に際し巨額の資金を投入していた。その資金難ゆえ、寺田の腹心である官房長官・星野(仲代達矢)は秘書官・西尾(山本学)を街の闇金王・石原(宇野重吉)のもとへ使いを出して2億円の借り入れを申し込むも、石原はその依頼を断り、逆にそれだけ巨額の資金を自分のような街金に借りなければならないほどの寺田政権の弱体ぶりに目を付け、知古の政治新聞社長・古垣(高橋悦史)に寺田政権の闇を調査させる。一方、政府出資95%の電力開発株式会社総裁・財部(永井智雄)は3ヶ月後に迫った退任までに九州の福竜川ダム建設工事の手配を完了したい旨を理事会で発言。財部は懇意の青山建設に工事を落札させたい腹だったが、業界大手・竹田建設は寺田・星野サイドから手を回し、福竜川ダム建設工事をなんとしてでも落札しようと画策する。


ダム工事を巡る汚職と政界の闇を描く。
白い巨塔』や『華麗なる一族』のようにドロドロのえぐい展開になるのかと思いきや、政治家の汚職や悪行は庶民の想像どまりで特にダイナミックなことをやるヤツはいなかった。一番腹黒そうな仲代達矢がたいして腹黒さを発揮しないまま終わったのが残念。西村晃の宴会芸は人生の参考にしたい。


┃ めしつぶ

金融王・石原の会社「石原商事」を訪ねた秘書官・西尾は、借金の申し入れに際し名刺を差し出すも、石原からはまったく相手にされず、「国有地を担保にするなら」などと言われたため名刺を取り返そうとするが、石原は机の上からさっと名刺を取って会社とつながっている自宅へひっこんでしまう。
自宅で石原はこの名刺をスクラップ帳のようなものに貼付けているのだが、このときのり代わりに使っているのが女房に言って持ってこさせためしつぶ
めしつぶでものを貼付ける描写、20年ぶりくらいに見た……。

┃ 料亭の食事・手みやげ

政界ものだからか、本作ではやたらと料亭が出てくる。
石原の息のかかった料亭「春友」、財部の隠れ家的料亭「末広」など、いずれも重要な会談・密談の際に使われている。そして情報が筒抜けるのもお約束。
出されている料理はどこの料亭でもぱっと見たいした違いはない。天ぷら、小鉢、日本酒のとっくりなど。みんなほとんど手をつけていないのがもったいないが、竹田建設常務・朝倉(西村晃)だけは元気いっぱいにガッツガッツ食っている。また、石原は面会相手がまったく手を付けず帰ってしまったものを折り詰めにしてもらい、帰宅してからガツガツ食っていたりする。

本作に出てくる料理でちょっと不思議なのが、底の広いブランデーグラスにパフェのように盛りつけたおつまみ。「末広」で財部が「ブランデーグラスの底に氷をしきつめて、その上に一口大のチーズのキューブのようなものを乗せ、ミントのような緑で飾り付けして爪楊枝で食べる」おつまみを食べている。ぱっと見、スイーツ風かき氷かパフェに見えて、「???」だった。また、星野が愛人宅(葉山の別荘)で出されるおつまみもこれと似たもので、「ブランデーグラスの底に透明な緑のゼリーのようなものが敷き詰められており、その上にカッテージチーズのようなもこもこしたものが乗っている」おつまみ。こういうおつまみが当時流行だったのだろうか? それとも撮影時に料理をセッティングした人の好み?

┃ 健康ランドのビール

石原は民政党の爆弾代議士・紙屋(三國連太郎)と健康ランドのサウナで面会。ここ、「東京温泉」は紙屋いきつけの場所らしい。さっぱりした後はラウンジのような休憩スペースでビールで乾杯。うまそうである。
この休憩スペース、上げ底になっている白い床が円形にくりぬかれていて、その円形のスペースが個々のテーブル&ソファになっているという、いかにも70年代っぽいスペーシーな不思議な内装でおもしろい。文章では説明しづらいが、見たらすぐわかるはず……。

┃ ゴルフ場のクラブハウスの軽食

財部は任期を前にして電力開発株式会社総裁を退任、総理と同郷といわれる松尾(内藤武敏)が新総裁に選任される。松尾は財部総裁時代より副総裁を務める若松(神山繁)を伴ってゴルフへ出かける。
ゴルフの後、二人がクラブハウスで食べているのが春雨サラダと春巻き。春雨サラダと書いたが、二人は妙にがっつり山盛りにして食べているため、もしかしたら焼きビーフンかもしれない。春巻きも二人で食べるにしては山盛りだったが……。

┃ アイスコーヒー

本作で会議などの際に出される飲み物として一番多かったのがアイスコーヒー。出される場所によってグラスがストレートの背が高いものだったり、スープカップ風のガラスのマグカップだったりと色々。ミルクを入れて飲んでいる人も多かった。のんびりコーヒーをストローですすっていたらいきなり発言を求められてビックリする理事など、小技も効いている。
なお、石原が古垣の新聞社を訪ねてきたときに出されるのはホットの紅茶。秘書の女がブッキラボーに置いて行くのだが、ボロ社屋なのにカップだけロイヤルコペンハーゲンとかウェッジウット(みたいな高級カップ)でめっちゃ浮いているという「来客用ティーセット」感はなんかよかった。